第23話
リスクの攻撃を次々に避ける。
「ええい! すばしっこい奴め!」
避けられないほどではないが、気を抜いたら当たるな。一撃一撃がかなり重いと見た。
「ふんぬ〜!」
リスクが何かを捻り出すかのように、歯を食いしばりだした。
「
刹那、拳が俺の腹部に当たる。視界が閃光のように白黒した。
『決まった〜! 一回戦で二年生随一のタフネスを一撃で打ち沈めた、鈍劫拳!!』
実況が聞こえる。しかし、その音すらも遠かった。キーンと耳が聞こえづらくなる。これがこいつの奥の手……だよな。ギアがおかしいだろ!?
「打撃後も、打撃を喰らっているようにダメージを与え続ける。それが鈍劫拳。」
まだ立てる……けど、ナメすぎてたな。ここでは結界を使わないって、事前に決めてるんだよこっちは……!
あれを使うか? いや、あれはあくまで奥の手だ。使用後の負担は洒落にならない。だが、なるべく距離を取って戦いたい……!
「ちょっとナメすぎてたよ。」
「ふん、生意気な奴め。」
リスクは何発も打撃を繰り出す。もう、気楽に避けている余裕はなかった。
何度も避ける。体格でいうとリスクの方が圧倒的に大きいので、懐に潜り込もうとしても腕が届かない。
遠距離系がないからな……どうすればいいんだこれ。
「筋肉締め!」
リスクが打撃を繰り出す。風圧でまたもや少し浮いた。
―――――来る!
「終わらせるぞ! 鈍劫拳!」
刹那、拳が当たる瞬間に俺はピタリと動きを止めた。リスクの拳の軌道は曲がり、俺に当たることはなかった。
「役に立ってよかったよ。」
俺のスキルである《戦神》は詠唱を省いても発動できる。何が起こったか分からないだろうなぁ。こいつは俺のスキルの中でも、発動したら頭一つ抜けるからな。
「残念、当たらねぇよ。」
「この野郎!」
リスクは拳を振るう。次も《戦神》が使えるとは限らない。発動確率は半分、さらにさっきすでに発動している。いつもだったら距離を取って弓でやるんだけど、準決勝までは武器の持ち込みは禁止らしい。
「
突如、リスクが拳を庇うような体制を取った。悪寒がする。これを喰らう訳にはいかない。さっきのパンチの比じゃない。空気が揺れた。
「
庇われていた拳が解き放たれ、凄まじい速度で風圧が飛んでくる。間一髪、鈍劫拳程の速度ではなかったお陰で、反射的に避けることができた。その風圧は、会場の壁を破壊する。
何だよ! この厨ニっぽい技!? 喰らってたら死んでたぞ!
突如、何かが加えられた感覚を感じる。
スキル《怯弱》
・発動中、攻撃を回避すればするほど、速度が上がっていく。
・発動中、攻撃を喰らえば喰らうほど、防御力が上がっていく。
へ〜え。大分マシなのが来たな。試してみるか。
「こっからは手加減しないぞ。《怯弱》!」
「今までのは本気でないとでも?」
リスクの連打を躱す。よし、上がり幅を確認してみるか。足を一歩、踏み進めると、ぐいんと進んだ。
「なっ!?」
「こりゃぁいいや。」
素早くリスクの周りをぐるぐると周る。
『おおっと! 何だこの速度はー!? とても、とても肉眼では追えませんっ!』
パワーは重さだけじゃない! 速度もだ! リスクを殴りつける。と言っても少し体制が崩れただけだった。
まあいいか。
リスクを押す。筋肉に裏付けられた体重の重さがあったが、速さで無理矢理押した。あっという間に、枠の外にリスクの体が出る。
「何っ……!」
『こっこれは……! リスク選手、枠の外に出たので失格! 勝者、アオ選手だぁーっ!』
会場がどっと沸く。だいぶ魅せ優先になってしまったな。今度からは比較的真面目にやらないと死ぬかも。
「そういう闘い方も、あるのだな。」
リスクが体制を立て直し、そう言う。やっぱり、こういう奴には身を持って教えるのがいいかもな。タキオンにも採用するべきかもしれない。
準備室へ戻る。あと一戦で準決勝か、だがその前に三種目あったな。
あいつかなり強かったしなー。あいつよりもっと強いのが来る可能性も全然あるか。
「次の相手は君か。」
気づくと、目の前には口と鼻を覆う吸入器のようなものをつけている生徒が立っていた。
「なんでわかったんだ?」
「先程、試合を終えてきたとき、君がまだいたからな。初戦は公開されているから、そこから予想した。」
「ほー。」
そういう予測もできたのか。盲点だった。そもそも記憶してなかった。
「次、君の相手をしたら準決勝だ。当然、君には負けてもらうがね。」
「その言葉、そっくり返させてもらおう。」
挑戦的な態度には、挑戦的な態度で返さないとな。
「……威勢がいいな。どうだ、ここは一つ、交渉をしないか?」
「断る。」
「最後まで聴け。」
「断る。」
交渉とか面倒なことはしたくないな。一回ブラック企業に入れかけられたこともあるし。
「そうか……後悔するぞ。」
「カッコつけてんじゃねぇよ。」
彼は立ち去っていった。この世界での経験はお前のほうが上かもしれないけどな、人生経験の量が違うんだよ。
それから暫く、人が入ったり減ったり。気付いたときには、俺を含めあと八人になっていた。司会の声がこちらまで響いてきた。
『盛り上がってまいりました個人戦! 遂に! 伝説の準決勝へのカードを得るものが決まる第三回戦! 熱い戦いが今! 始まります!』
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