第22話

 体育祭まであと一週間。そんなあり得ない状況で練習を初め―――――――当日。

 全く、日がすぎるのは早いもんだ。太陽はもう少しゆっくり動いてくれないと。

 自室で着替える。体育祭は学校指定のジャージを着るらしい。包みの中から、新品の青いジャージを取り出し、シワをつけないようにそっと着た。そして、ファスナーを締めた。

 その時、ゴトリと郵便受けから一枚の紙が投げ入れられる。その紙を手に取る。


アオ

担当種目

・個人戦

・団体戦

・水中旗取り

流鏑馬やぶさめ


 あの担任、まじでやってくれたな。俄然やる気が出てきた。

 扉をガチャリと開ける。この学校には結構強いやつがいるらしいけど、結界でなんとかなるだろ。

 それに、も用意してるからな。あれが上手く行ったとき、俺は下手したらタキオン超えるかも……いや、甘い期待はやめておこう。そもそも、滅多には使わないから秘策なんだよな。

 俺はグラウンドへと向かった。




 グラウンドでは、既に多くの生徒が整列していた。クラスの列の中に入る。しばらくしていると、


「体操、始め!」


 最前列の中央の台の上に立っていた一人の生徒が大きな声を上げた。それと同時に、聞き覚えのある音楽が流れる。それと同時に、体操が始まった。

 こうやって準備運動するのも悪くはないかもしれない。身体を伸ばすのも運動の内だ。それより、作戦を練るか。確か、最初は個人戦だったな。初戦は「ネコチャ」とかなんとか云ったけど、そんな大した噂は聞かないし、まぁ大丈夫だろう。

 それより、レン、アヤカ、ミユの三人。多分準決勝まで残るな。となると、俺が準決勝まで残った場合、この三人のいずれかと戦う事になる。を使うならここかな。

 あー、でも、その前に一回団体戦と水中旗取りか。個人戦に力を注ぎたいけどなぁ。

 そうこう考えているうちに準備運動が終わり、個人戦をやらない生徒達は観客席へ。個人戦に出る生徒は準備室へと案内される。

 俺は一番最初だったので、入り口へと向かう。


『さーあ始まりました! 司会のマリです! 第……なんでもいいや。体育祭! 最初は個人戦! 気になる初戦はー!?』


 そんな声が聞こえてくると、入り口が開いた。そこからグラウンドへと入る。にしても良く出来てるなぁ。


『流星の如く現れた戦闘の天才! アオ! それと対するのはー!? 食べる仕草も存在感も全てがモブキャラ! ネコチャだぁーっ!』


 反対側から気の弱そうな女子生徒がとぼとぼと入ってくる。ここは早めに終わらせたいな。


『それでは試合! 開始ー!』


 どこからでも合わせてやるよ……!


「どーも、この世界で言ったらごくごく普通のモブ、モブチャです。」


 ネコチャは独りでに話し始める。


「まず、私がこんなのに勝てるわけないじゃないですか。誰ですかこんな対戦カード選んだの。というわけで棄権します。」


 ネコチャは先程出てきた入り口へと戻っていく。拍子抜けしてしまった。


『えーと。わがサクラ……コホンコホン! ネコチャ選手棄権により、アオ選手の勝利!』


 不満の怒号が飛び交う。そりゃそうだ。個人戦、しかも初戦でこれはないだろう。

 事務員のような生徒に準備室へと案内された。

 準備室には、沢山の生徒達がトレーニングをしていた。外の試合が観えないようになっているのは、戦局を予想して対策できないようにするためらしい。無駄にそういうところに凝るなぁ。


「あ、アオちゃん。」


 その声は……! アヤカが手を振りながら近づいてくる。手を振り返した。


「どうだった? 初戦は。」

「なんか棄権されちゃってさ。」


 アヤカはあからさまに不満そうな顔をする。


「何それ。せっかくの初戦なのにね。あ、私次だから準備しなきゃ。頑張ってね〜。」


 アヤカが走って行く。応援はしといてやるか。




 暫くボーッとしていた。人が入ってきたり、出ていったり。心なしか、その人数は減っていっているような気もした。


「アオさーん。出番ですよー!」


 そんな声が聞こえ、我に返った。「はーい。」と返事をして、入口へと向かう。次はもうちょっとまともな奴が、相手してくれるといいんだけど。


『さーあ第二回戦! 数々の戦いが繰り広げられてきましたが、こっからは初戦を突破した、そこそこの実力者ばかりです! あーそこそこって言い方だめでしたっけ? まぁいいや! 今回の選手はーっ!?』


 入口が開くと、反対側に中学生とはとても思えない、筋骨隆々な男子生徒がいた。

 いや、どんだけ鍛えたんだよ。


『未だ実力は計り知れないアオとーっ! 初戦の相手を一撃KOノックアウト! その筋肉は裏切らない! リスクだーっ!』


 さぁ、どうするかな。パッと見強そうだけど、恐れることはないだろう。さっきの初戦でよくわからんシメをしてしまったから、今回はダラダラと長くやるか。

 リスクは拳を構えていた。


『それでは試合! 開始ー!』

「筋肉……締め!」


 強く振るったリスクの拳は空を切る。その風圧は凄まじく、身体が少し浮いた。


「小娘一人、弾き出してくれよう!」

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