第20話

 ミユを優しく横たわらせる。ミユはすくっと、すぐに起き上がった


「すご! めっちゃ強いね!」


 えええええ!? なんというタフネス!? 手加減したとはいえ、ここまで元気なものか!?


「でも、これはどうかな?」


 ミユが銃口を向ける。バックステップで後ろに下がった。


「《風向操作》、超強風!」


 おおっ! もの凄い向かい風が……吹いてないな。ミユの髪だけが強く靡いている。そこへ、スキル学教師の声がかかる。


「はい、もう充分。ミユさん、スキルを解除してください。」

「良いところだったのにー!」


 眉を曲げたミユの、髪が元に戻る。


「また校舎を半壊でもさせられたら困りますからね。」


 ええええぇ!? 何した! ミユ、何したらこの校舎を半壊できるんだよ! というより傷もなく綺麗に修復できた校舎もすごいな!


「はい、じゃあ授業に戻りますよ。」


 見物していた生徒たちは席に戻って行く。すると、近くにいた男子生徒が話しかけてきた。


「アヤカとレン、そしてミユ。この三人はこの学校ではトップの強さなんだってさ。体育祭の優勝候補。」


 そりゃ強い訳だ。そして、こいつらはかなりの戦力になりそうだな。小国なら滅ぼせそう。


「ま、俺も負けないけどな。」

「やるねぇ。」


 よし、負け惜しみの強そうなこいつは放っておいて、この三人、ここまで強いのに、結界も《身体強化》も無さそうだったな。将来有望。鍛え方次第では、結界を持っている俺より強くなる。

 負ける訳にはいかないな。フェローチェと戦って、もっと強くならなきゃいけないことを痛感した。あれの結果は憶えていないが、多分、俺は負けてる。魔王のロミーは倒したが、あれは《洗脳》が俺に効かなかったのが大きな勝因だった。今度は少し不利でも勝てるようにしなきゃな。


「よーし! 走れ!」


 ゼンの声が聞こえた。いきなりかよ!? 周りの生徒たちがグラウンドを走り始める。遅れつつも、俺も走り出した。




 場所は変わり、とある遺跡の中。


「疲れたー! 寝るー!」


 マイムは、その遺跡を護る小さな蛇の大群と戦っていた。


「それじゃあ攻撃が当たらない! もっと下に!」


 ラーリアの厳しい指導が入る。涙目、というより殆ど泣いているような目で、マイムは蛇を零兵達に処理させていた。


「そんなようじゃあ、どころか、ぼくにもなれないよ!」


 マイムは唇を噛み締める。直後、絞り出すような声を出した。


「やる!」


 ラーリアは微笑む。片手を挙げた。


「その勢い!」




 戦闘学が終わり、数学が始まった。小太りで、白髪交じりの教師が遅れて入ってくる。


「それじゃあ、始めまーす。」


 その教師はすぐに着ていた上着を脱ぎ捨て、黒板に一本の線を引いた。そして、教卓の上にあった座席表のようなものを手に取り、上を向いて指を回転させた。アヤカが静かに身体を寄せてくる。


「ツマ先生はこうやって、生徒を当てるときに勘で決めるの。」

「へー、なんて大雑把。」


 ツマが指を下ろし、その指に座席表が当たる。ツマは座席表をまじまじと見つめた。そして、一人の生徒に質問を投げかける。


「じゃあ、ユウキさん! この線分の長さは!」

「え、えと、百メラリアです。」


 どこかから声が聞こえた。それに対しツマは教卓から身を乗り出すようにして、


「分かっていませんね、あなた駄目ですねぇ〜。」


 と、言い放った。


「なんだ、あの生徒に嫌われそうな教師の鑑は。」


 思わず口に出してしまった。アヤカが口の前に人差し指を立てる。


「みんなそう思ってるよ。」


 やはりか。というより、『メラリア』ってなんだ? ここでの長さの単位か?

 

「これは百五十メラリアですよ? いいですね!」


 俺の勘だと、あれは百五十センチメートルだな。単位はそんな大した事なさそう。


「この前起きた大きな戦争、ああ言う事も今後、起きると思うんですが。ここで見ただけで距離が測れるようになっていると、まず重宝されます。ちなみに、最近有名となった『準魔王』エスト、『破壊王』ソリドゥス、『びりびりの』トレノ、『大教祖』ラファーガ。この中では、私はエストが嫌いですねー。何を考えているかわかりませんからねぇ。」


 ああ、俺も嫌いだよおまえの事。それと、誤解しないでほしいが、難解な行動をしているのはタキオンだ。そこらへん、誤解しないでほしい。マジで。


「では、今日はここまでにします。次回までに、目視で長さを測れるようにすること。」


 え、はっや。全然時間経ってないけど。

 何も言う間もなく、ツマは出ていってしまった。えー。ちょっとこれってさぁ……。


「ツマ先生の授業は結構早く終わるんだ。」

「え。」


 結構って、早すぎだろ!? まだ二十分しか経ってないぞ!

 アヤカは机の上に座るようにもたれかかり、俺の方を見る。


「折角だし、色々教えてよ。他の国のこと。」


 あー。確かに、ここにいたらあまり外に出れないもんな。


「いいよ、教えてあげる。」


 二つ返事で了承すると、アヤカは身を乗り出す。他の生徒たちも集まってきた。こいつらはあまり外に出たことがないのか? あーでも、鎖国が解けたばかりって言ってたな。


「じゃあ、どこから話そうか。」


 正体が勘づかれないように気をつけねば。

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