第17話
巨大な倉庫の並ぶ道を突き進んでいると、あちらこちらで敬礼をする人々が見える。そりゃ、お偉いさんが二人もいるもんな。
そして俺は怯え、避けられ、唾を吐かれる始末よ。有名になるのも、気楽じゃないなぁ。とぼとぼと歩き、辺りを見渡す。見渡す限り、倉庫と溶岩。溶岩はなにか用途があるのだろうか。
「見えたよ。」
すぐに正面を向く。地下なのに山があった。辺りは茨に覆われていて、その中に一本、獣道のように道があった。
「すごいなぁ。」
「あの道は元々なかったんだ。それをフェローチェが作ってしまった。」
山までは暫く倉庫がなかった。溶岩の川に左右を挟まれているだけの、ただ平坦な道。しかし、何処か神聖さも感じた。
暫くして、目の前には山に登る道と、その前を閉ざすように七つの燭台が置かれていた。そのうち一つは火が灯っていた。
「此処は神の私有地とも呼ばれているからね。許可を貰うんだ。」
フェラットはそばにあった松明を手に取り、火の灯っていた燭台で火をつけた。
そしてその松明の火を六つの燭台に移す。燭台に灯った火はすぐに変色し、燃え上がった。左端を除いて。
「あれ? おかしいな。」
「許可が降りませんねぇ。」
二人も首を傾げている。そのまま入ってしまえばいいのにと思ったが、口出しはやめておこう。
「エストくん。やってみてくれるかい? 右端の燭台は、人間だと上手く行かない場合があるんだ。」
松明を受け取る。言われたように、その燭台に火を移した。
その瞬間、その燭台が強く、紫色に燃え上がる。フェラットは目を見開いていた。
火の灯った燭台の火の色はそれぞれ違い、左から、紫、黄、赤、茶、橙、水色。それぞれが薄く、しかし力強く、光っていた。
「よし、登ろう。」
燭台が歪むようにして消える。
フェラットとソルトに続き、俺も山を登った。一歩一歩を確実に踏みしめる。生温い風が背中を擦った。よく地面を見ると、切り裂かれた茨の断面が見えた。
「フェローチェは、ついこの前まで入院していたんだ。先の戦争でかなりの傷を負っていてね。重症度はトップ。治療に一年かかるとも言われたが、彼女は圧倒的な速度で回復した。私は、その理由をずっと探していたのだが、最近見つかったよ。」
フェラットの呟きに耳を貸す。フェローチェ……自分を壊すのはやめた方がいいのに。
「その理由は、全てをかなぐり捨てる程の、傲慢。圧倒的な目標と、その意志。」
なんかやばいこと言ってるな。フェローチェ、本当に大丈夫か?
「あぁそうだ、君を見て思い出したよ。フェローチェは、『勇者』、リーン・ブルーと互角の実力を持っている可能性がある。十分に気をつけて。」
なんで俺を見て思い出したのかはわからんが、かなり強いのは確かだな。
「あぁ、そろそろ頂上ですよぉ。」
一気に階段を駆け上がる。そこには、純白の祭壇があった。否、神殿といったほうが正しいのかもしれない。
そこからフェローチェが姿を表す。
「何しに来たの。」
フェローチェで間違いない。だが、なんだ。口調も顔も、フェローチェそのものなのに、この重圧は。
「もう自分を犠牲にするのはやめろ。タキオンがなんと思うか。」
説得を試みる。しかし、なんの反応も見せなかった。フェローチェは天を仰ぐ。
「お兄ちゃん、行ってきます。【疾風迅雷】」
見えなかった、フェローチェが一瞬で俺を横切り、山を降りようとしていることが。
「邪魔。」
振り返ると、フェラットが巨大なトランプでフェローチェの動きを制限していた。
「速いですねぇ。僕と競争しましょう。」
ソルトが高速でフェローチェを床に叩きつける。動けなかった。実力が違いすぎる。まるで蟻と恐竜だ。
フェラットの前に無数の剣が現れ、フェローチェを穿く。
「邪魔しないで!」
フェローチェの一喝。それと同次に二人が吹っ飛んだ。フェローチェが立ち上がる。
やるしかないか……! 剣を取り出す。その瞬間、突風が吹いた。なんて風圧! 気を抜いたら吹き飛ばされるな。
一瞬、本当に一瞬で、俺は切り裂かれた。
痛みと衝撃で膝をつく。切り裂かれた胴からは、血が出ていた。そこにフェローチェが剣を振り下ろす。
ガキィン。
剣を、ソルトが、足で受け止めていた。
「なんで……。」
「敵同士ですがぁ、貴方をここで失うわけにはいきませんからねぇ。」
うお、めちゃくちゃ信用されてる。
「足を止めるな!」
フェラットの声が聞こえる。
「どんなに傷が深くても。動けなくても! 足を止めたら終わりなんだよ! あれはもう、ただの人間じゃない! あんな、度を外れた力を持つのは、『勇者』の称号を持つ者だけだ!」
道理で馬鹿みたいに強い訳だ。ここで負ける訳にはいかない!
「タキオンの為にも、俺の為にも、なんとしてでも、お前を止めてやる!」
全身の痛みと疲労が抜けていくのが分かった。俺は、本当は強いんだ。だからこそ、ここで負けることはできない。
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