第16話

 自室に入ろうとすると、たまたま近くにいたミユが、話しかけてきた。


「つっよいじゃーん。あそこまで強い同級生は初めてだよ。よろしく!」

「え、あ、よろしく。」


 いかにも明るいキャラクターで一瞬戸惑ってしまった。冷静にならないと。ミユの動きに合わせて、ハイタッチをする。


「そうだ、もうすぐ体育祭なんだよね。」

「体育祭。」

「そ、同学年の生徒達で、トーナメント戦をするんだー。」


 トーナメント戦かぁ。やってみるのもいいかもな。


「昔は、トーナメント戦の対戦相手を数秒で倒して優勝した人がいたらしいけど、アオならできるかもね。ま、自分も負けないけど?」


 へー、強いやつもいたんだな。とりあえず、明日の事に気を回すか。ここ最近面倒なことが多すぎる。


「えっと……ごめん、もう眠いからお……私先に寝るね。」

「そっか、あ、これあげるよ。じゃね〜。」


 ヘアゴムを投げ渡された。

 ミユが手を振るのを見送りつつ、俺は自室に入った。鍵を閉める。

 元はといえばサーマルが……いや、もういいや。

 服を脱ぎ捨て、シャワールームでシャワーを浴びた。長くなった髪を揉み洗う。妹がまだ小さい頃は、よく俺がやってたなぁ。まさか、自分にやることになるとは思わなかった。

 汚れをしっかりと落とし、バスタオルで体を隅々まで拭いて、パジャマに着替えた。そして鞄に荷物を詰め、そのままベッドに入った。




 とある草原、一人の男が立ち尽くしていた。名はサーマル。護国軍最高戦力にして、現代最強の男。

 使用するスキルは一切不明で、唯一糸口となりそうなのが、サーマルが本気を出した後は、今のように天が、焦げること。

 そこに一人の兵士が駆け寄った。


「サーマルさん、ここ最近、強力な魔物が増えていますね。」

「ああ、全く、神はご乱心か。」


 サーマルは未だ焦げ、黒くなっている空を見上げた。




 窓から流れた冷たい空気で目が覚めた。お、もうすぐ出発か。

 私服に着替え、鞄を身に着け、武器を手に取った。そうだ、俺は机の上に置いておいた黒いヘアゴムを手に取る。軽く髪を後ろでまとめ、結んだ。

 さて、このまま廊下に出ると見つかるな。そんなときは。俺は窓をガラリと開ける。窓を乗り越え、飛び降りた。足を壁に押し付けて速度を落とし、着地。完璧。校門前まで走って向かう。

 校門の前には既に、フェラットが待機していた。校門の前に着く。


「早かったね。あ、少し待ってて。」


 フェラットは俺が結んだヘアゴムを取り、慣れた手付きで結び直した。


「完成。似合ってるよ。」


 結ばれた髪を触ってみる。う……ん、悪い気分ではないな。


「じゃあ、もう行こう。掴まってて。」


 フェラットは石を取り出す。あ、久しぶりに見たな。俺はフェラットにしがみつく。身体が青く光り、次の瞬間―――――――俺達は石造りの町にいた。

 家も石、地面も石、そして……天井も石。


「ここはアルカナ王国の地下。最重要機密が眠る場さ。」


 地下にこんなものを作るなんて……どんだけ金あるんだよ。


「と言ってもここに全てが眠る訳ではなく、此処は何層も分かれていて、ここはまだ表面。私達はエレベータで最深部へ向かう。」

「エレベータ?」


 フェラットが指を指した先には、確かにエレベータらしきものがあった。ここにもあるんだな。

 フェラットと共に乗り込む。幾つもあるボタンの中、『ロータウン』と、書かれたボタンをフェラットが押すと、『パスワードを入力してください。』と空中に青い文字が出てきた。フェラットは様々な階のボタンを、素早く数回押す。文字が『認証成功』に変わった。途端に、とてつもない速度でエレベータが降りていく。いや、この速度は……。


「たまには落下するのも悪くないよね。」


 やっぱりだー!

 道理でおかしいと思ったんだよ! この世界で電気で動くもの見たことないなって思ったんだよ!

 立っていられず、姿勢を低くする。しかし、フェラットは普通に立っていた。


「おや、これは初めてかな?」

「なんでそんなに余裕なんだよ!」

「いや、慣れてるから。」


 慣れてても! 慣れててもだ! あぁぁぁぁぁ!




 エレベータが落下していたとは思えないくらい、普通に動きを止め、弱々しい光を差し込ませながらドアが開く。もうだめだ。命がいくらあっても足りない。

 おぼつかない足取りでエレベータから出る。ロータウンと云ったが、タウンではなく、巨大な倉庫が並んでいるという感じだ。


「お疲れ様でぇす。」


 この口調は……。

 声が聞こえた方を見る。そこには、大将であるソルトがいた。


「えっとぉ、エストさんですねぇ。報告書の顔より可愛くなってるなぁ。近々変更しないとぉ。」


 ソルトがまじまじと俺の顔を見つめる。そ、そんなまじまじ見つめたら、戦争のときの正体がバレるだろ!


「ふふっ。さぁ、ソルトくん。目的の場所へ向かおうか。」

「そうですねぇ。」


 談笑しながら何処かへ向かい出す二人に、俺も後を追って行った。

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