第15話

 武装した集団に向かって走る。拳に結界を纏わせた。

 試し打ち、やってみるか。


「【変幻自在】、巨神アルゴス。」


 腕が巨大化した。全方位が見える、死角なし。俺は、武装した集団を殴りつける。

 しかし、拳が止められた。止めたのは、『隊長』と大きくシャツに書いてある、巨人とも、そうでないとも言えない男だった。相当な腕利きと見た。


「少し見くびっておったわい。」

「その『少し』も、すぐに変わるぞ。」


 背後に大剣が飛んでくる。腕を元のサイズに戻し、受け取った。剣を振り回し、一歩踏み出すと同時に隊長を袈裟に斬った。誰だか知らないが、ナイスアシスト。

 ふと、月のような独特な模様の蝶が俺の方に飛んでくる。俺に触れるあと少し、というところで、命の灯火が消えた。

 すると、教員達が倒れた武装集団を取囲み、すぐに拘束してしまった。

 学長が俺に近づいてくる。


「助かりました。ですが、今日はもう中止せざるを得ませんね。」


 まぁ、そりゃそうだ。警備にも問題があるかもしれないしな。それより、俺が周りの生徒からドン引きされている気がするんだが?


「キモ……。」

「強すぎだろ……。」


 ちょっとやりすぎたな。うん。いくら素晴らしい教育を受けていても、成長途上のこいつらは俺に敵わない。

 でも……なんだろう。久々に全力を出せたような……。いつも出していると思うんだけどなぁ。


「アオさんは後で会議室に来てください。」


 呼び出し食らったー! 完全にやらかしたパターンだ!




 うう……。

 俺は会議室の前に来た。なんと謝ればいいだろうか。

 ドアを三回叩いた。ドアを開ける。

 そこには、学長ではなく、赤と黒の縞模様の服を着こなし、赤いハートがでかでかと描かれた仮面をつけた、特徴的な人物が座っていた。


「座っていいよ。くん。」


 はぁ……。俺は正面のソファに座った。ん? 待て。


「え……今なんて……。」

「さっきマジックを披露していた者だ。よろしくね、くん。」


 言ったー! 俺は左右を見渡す。だ、誰も見てないよな!


「大丈夫、ここは誰もいないから。」


 えーと、フェラットっていったな。

 フェラットは仮面を取る。

 その顔からは、性別こそ分からなかったものの、かなりの美形であることが読み取れた。

 端正に整えられた青いショートヘア、吸い取られるような赤い瞳、丸く整えられた細い眉。

 道端で見かけたら、二度見は避けられないだろう。


「単刀直入に申し上げよう。私に協力してくれないか?」

「は?」


 呼び出されたと思ったら、何言い出したんだこいつ。


「君の悪名は聞いている。しかし、元を辿ってみれば、民間被害が限りなく少ない。君に協力してもらうのは、アルカナ王国にとって恥晒しだ。その上で協力を頼みたい。」

「そこまで真面目に言われるとなぁ……。」


 フェラットは頭を深々と下げる。


「どうか、頼む。」

「分かった、頭を上げてくれ。」


 フェラットは頭を上げる。安堵の表情を浮かべていた。


「で、内容は?」

「護国軍兵士、フェローチェ・ペネトレイトの拘束。及び尋問だ。」


 俺は思わず身を引いた。フェローチェの拘束!? 何をしでかしたんだ、あいつは。


「フェローチェは現在、護国軍の機密文書室を荒らし回っている。大将でも手がつけられない状況なんだ。」


 大将も手をつけられないとなると……やってるなあ、《魂削》。死ぬ気かよ、でも死なれると困るんだこっちは。

 でも、何故だ? タキオンも似たようなことをやっていた。機密文書には、あの兄妹にとってなものがあるのか?


「何か気づき始めているようだね。アルカナ王国は、隠し通していることが幾つがあるんだ。そのことが知れ渡ると、世界がどうなるか分からないからね。」


 どんどん謎が深まっていくぞ……。あの兄妹は一体何を必死に……命をかなぐり捨てる勢いで。


学校ここのことはどうにでもなる。明日の早朝、地下型アルカナ王国最下層、『ロータウン』ヘ向かう。その後、大将ソルトと合流。三人でフェローチェの鎮圧に向かう。」


 た……大将まで。結構大事っぽいな……。明日と言われても文句が言えない。


「あ、いいの? まだ授業あるみたいだけど。」


 そういえばそうでした。

 俺は会議室を出て、教室へ向かった。




 丁度、授業が始まったタイミングでついた。

 席につく。どうやら今はスキル学の授業らしい。片眼鏡モノクルを掛けた女性教師が、教科書を持ちながら話している。


「スキルは、生まれた時、必ず一つ以上二つ以下、持っています。皆さんはどんなスキルを持っていましたか?」

「《暗殺術》!」

「《真似事》!」

「《白うさぎ》!」


 様々なスキルが飛び交う。

 俺は確か……《チャージ》だったな。結界使えるようになるまでろくな威力出さなかったけど。


「いいスキルですね。それらのスキルは、天賦スキルといいます。産まれたあとに手に入るのが、習得スキル。テストで必ず出ますよ。」


 へー、そういう区分ってあったんだ。


「それ以外にもスキルには区分がありましたよね? 何でしたっけ?」

「召喚系!」

「身体系!」

「付加系!」


 色々あるんだなぁ、割と奥が深い。というかこの教師、人気がありそうだな。大人の色気というか、すごい。


「そうですね。そして、そのスキルの系統の中には、常識を壊すようなものや、存在こそ明るみになっているものの、所持例がないものもあります。それはまた次回。先程の事件の処理に当たるので、今日はこれで授業は終わりです。寮、または家に帰ってください。解散!」

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