第13話

 なんとかグラウンドへ出た。この服装のままでやるらしい。

 中央にはどっかで見た脳筋教師が立っている。というか、なんで昨日あれを食らったのにピンピンしてるんだよ。そう思うと、授業がまともに進むかどうか心配になってきた。


「三周、始め!」


 そう教師が言ったと同時に、同級生達はグラウンドの周りを走りだす。俺もつられて走った。なるほど、最初は走るのか。

 息を切らさないように、軽いペースで走る。大分体力もついてきたな。

 しばらく走り、三周を終えた。すると今度は、生徒達が中央に集まる。


「よし! 今日は剣の使い方を教える。新入り! こい!」


 んぁ? あぁ、俺のことか。前に出ると、生徒達の話し声が若干聞こえた。


「でた、脳筋の洗礼。」

「実技試験のときとは、比べ物にならないんだよな。」

「ご愁傷さま。」


 え、何。そんな有名なの? そして実技試験とは比べ物にならないって……。ちょっと期待できそう。


「これを使え。」


 脳筋教師は二本の竹刀を取り出し、そのうち一本を俺に投げ渡した。

 脳筋教師が俺に向かって立つ。


「先にこい。」


 お、いいの? じゃあ遠慮なく。

 結界を纏わせた。何事も本気でやらないと面白くないからな。

 素早く縦に斬りかかる。脳筋教師は、それを竹刀で流すように受け、体制を低くした。

 やるじゃん。


「この様に、縦斬りは流すように受け、体制を低くし、懐に潜り込む。そして、」


 薙ぎ払いだな。竹刀を持ち替えた。


「素早く薙ぎ払う。」


 教師の声に合わせて、薙ぎ払いが飛んできた。それを素早く受け、脚で教師の腹を思い切り蹴り上げる。

 生徒達から驚きの声が上がる。

 つくった隙に、すかさず竹刀を叩き込んだ。一撃、二撃、三撃。そこまで入れたところで、バタリと教師は倒れる。

 歓声が上がった。

 なんでだろ。こいつが脳筋だからかもしれないが、少しだけ動きが読めるな。

 すると、教師がすくっと立ち上がる。


「と、いう風に、戦闘には工夫が必要だ!」


 げ、なんでこいつこんなピンピンしてるんだよ。タフすぎるだろ。


「それでは、今からグラウンドに魔物を放つ!」


 あーあ。おかしくなりだした。


「殺傷能力はないが、攻撃を一回でも喰らうと失格だ! 長く残るほど成績が上がる! 頑張れ!」


 生徒達が不満を言う間もなく、魔物がグラウンドに解き放たれた。

 こういうこともやるのか……!

 そして全ての生徒に竹刀が行き渡る。

 やってやるよ!




 一言、言いたいことがあるとすれば、あまり強いやつがいない。

 いや、俺が戦ってきた相手が強すぎたのかもしれない。

 あっという間に、生徒達は減り、俺を含め、あと四人になっていた。横目で見ていたのだが、この三人は年齢の割に実力がある。

 まず、アヤカ。彼女は俺の隣の席なので、名前を知っている。竹刀の扱いにかなり慣れていた。

 次に、レン。クールな感じの男子生徒で、刀と、スキルであろうオーラ的なもので戦っていた。

 最後に、ミユ。ホームルームが終わると、真っ先に俺に向かって来た生徒だ。竹刀なんかそっちのけで、銃を使っている。

 歓声から名前と顔を組み合わせた結果だ。

 それにしても、なんか疲れてきた。ここで魔物を全部伸してしまってもいいかもしれない。大人げないかもしれないが、俺の見た目は残念ながら、大人じゃないので多分いい……よくないけど。

 竹刀に結界を纏わせた。走りながら魔物を斬り裂く。

 弱すぎないか? やっぱ実戦だな、うん。

 一瞬、同級生達の、口をあんぐりと開けた顔が見えた。

 全部斬り裂いたと同時に、チャイムがなる。


「じゃあ、今日の授業は終わりだ。解散!」


 教室に帰ろうとすると、同級生達が走り寄ってきた。


「すごーい!」

「強すぎだろ!」

「かっけー!」


 同級生達は、普通に駆け寄っているだけだと思うが、俺にとっては空いては大きめの体なので、もみくちゃにされるのだ。


「ちょ……ちょっと。ぐえぇ。」


 息ができない〜! 動けない〜!


「ほらほら、アオちゃんが苦しそうでしょー。」


 その声が聞こえたと思うと、一気に、締め付けられていた俺の体は楽になった。

 同級生達が退いて道ができた、その先を見ると、声の主はアヤカだった。アヤカ様。ありがとうございました。この御恩は忘れません。


「ほら、次の授業行こう。」


 アヤカに手を引っ張られ、俺は半ば引きづられるようにグラウンドを出た。




 教室で次の授業の準備をして、ぼーっとしていると、アヤカが話しかけてきた。


「さっきのあれすごかったよ。バシバシバシーってさ。」


 アヤカは手を、剣を使うように振る。かわいい。


「しっかり鍛えてきたからさ。まだ敵わない相手もいっぱい居るけど。」


 そう答えると、アヤカは目を輝かせる。何この娘。めっちゃかわいいじゃん。




 会話を弾ませていると、教室の扉がガラリと開く。

 なんだあれ。本当に教師か?

 いかにもかったるそうな目。半端ない寝癖。服はしわしわ。

 見た目の時点で悪い印象しか出てこない。

 その男性教師は、頭を掻きながら教壇の上に立つ。すると、同級生達は素早く席についた。


「えー、過去は歴史。未来も歴史。そして今も歴史だ。今日は昨今の世界情勢を見ていこうと思う。」


 いきなり授業が始まった。

 教師はプリントの束を取り出す。するとプリント達が一人一人の生徒の机に飛んでいった。


「アルカナ王国の戦争と、最近有名な冒険者。エスト・モリスとその仲間についてを話そうと思う。」

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