第12話

 ドタッ! と音を立てて男が仰向けに倒れる。気を失っていた。まさかここまで上手くいくとは。


「脳筋も程々にしてくれ。気が狂う。」


 すると、扉が開いて学長が入ってきた。軽く手を叩いている。


「お見事。実技試験、十年前の最速タイムに次ぐ速さですね。」


 まぁこんな脳筋、攻撃置いて構えてたら攻略できるもんな。


「貴方の記録は、五秒。因みに最速記録は、一秒未満です。」

「はぁ!?」


 いやいやいや、これがいくら脳筋だとして、瞬殺は無理だろ! 一体どんな化物だよ。


「何はともあれ、合格です。学生証を渡しておきます。」


 学生証を渡された。よーしこれで無事に入学――――て違う!


「待てぃ! さっきとんでもない化物をスルーしようとしましたね学長!」

「ああ、彼ですか。彼の名前は確か……カ……カ? 忘れました。年は取りたくないですねぇ。」


 うわめっちゃ気になるじゃん。絶対調べてやるー!


「学生証に不備がないか、確認しておいて下さい。」


 さっと学生証に目を通す。




 アオ

 年齢 13歳

 性別 女

 出身 ベントゥス

 後見人 サーマル

 備考

 戦闘面に置いては非常に優秀。




 よーし。間違いはな……え?

 もう一度目を通す。いや、流石にそんなことはないよな。うん、あるな。不備しかない。


「あの……。」


 俺が言い終わる前に、学長が一枚の封筒を差し出す。


「忘れる所でした。サーマルさんからのお便りです。私もまだ中は見ていません。」


 すぐに受け取った封筒を開ける。そこにはこんな文面が書かれていた。


『 重要

 無事に入学したようだな。

 急ではあるが、本題に入る。

 魔物には性別がないことはお前も知っているだろう。だが、堂々と、お前が魔物であることを明かすと、入学はできない。

 そこで性別を決める必要があったのだが、その時忙しくてな。迷ったものだから、硬貨を投げて決めさせてもらった。

 文句はないよな。

                  サーマル』


 なんだこの態度は〜! くっそー。最強であろうが何であろうが、次会ったときまで首を洗ってろ、このやろー!


「あの……寮へ案内したいのですが……。」


 腹を立てていると、後ろにいる若い男性教師が、真っ青な顔で声をかけてきた。

 渋々ついて行く。




 受付で鍵を受け取った。

 ここの寮は全個室鍵付き、シャワー完備なので、男子寮、女子寮といったものはないらしい。

 階段を登り、鍵を開けて部屋に入る。中は比較的広かった。

 ベッド一つと、デスク一つ。大きめのクローゼットに、シャワールームだ。

 デスクの上には、教科書が数冊置かれていた。それより、どっと疲れた。流石に、あの距離を走るのはやりすぎたな。


「疲れた、寝るか。」


 俺は服を着替え、そのままベッドに潜り込んだ。




 辺り一面にに白い靄がかかっている。俺はそこを歩いていた。

 しばらく歩いていると、人影が見えた。サーマルだ。何故ここにいるのだろう。

 俺はサーマルに近づいていった。


「まだだ!」


 サーマルの叱責に足が止まる。何故ここまで怒っているんだ? サーマルの表情が柔らかくなる。


「まだ、完成していない。なぁ、―――――。」




 ベッドから飛び起きた。窓からは、明るい朝の日差しが差し込んでいる。

 もう朝か。

 昨日あそこまで走ったのに、どこも筋肉痛になっていないこの体に少し感動してしまった。

 制服に着替え、鞄に教科書を詰める。部屋を出て、食道へ向かった。




 朝食は、パンとサラダ、シーチキンである。意外と好みの味だった。辺を見渡すと、他の生徒達が友人と共に、食事を摂っているのが見える。

 やばい、このままだと、ぼっちになる割合が高い! これはまずいぞ。死活問題とも言えよう。

 すぐに食事を終え、教室へと向かった。




 俺は今、一年二組の教室のドアの前に立っている。懲罰ではない。

 生徒達を驚かせたい担任教師から、ホームルームが終わる直前に入ってこい、と言われたのである。

 こういうことをしたことがないからなぁ。緊張するなあ。

 第一印象は大事なので、身だしなみを整える。


「これで、ホームルームは終わりです。」


 そう言う担任の声が聞こえた。

 今だ!

 ドアを素早く開ける。


 バンッ!


 大きな音が出た。生徒達が丸い目でこちらを見る。そして、この作戦を計画していた担任も目を丸くしていた。

 あ、あれ? やりすぎた?

 ふと、我に帰った担任が手招きをする。そっと教室に入り、教壇の上に立った。


「え、えーと。今日から三ヶ月の間、この学校に通うことになったアオさんです。席は……アヤカさんの隣ですね。」


 その、アヤカと思わしき女子生徒が、スッと手を挙げる。隣に空いている席が見えた。すぐに向かい、座る。


「えー、それでは。最初の授業は……戦闘学ですね。ほら! 気を確かに!」


 ぼーっとしていた生徒達が一斉に動き出す。こちらへ。

 俺の席はあっという間に、同級生達に囲まれてしまった。心なしか、同級生達の身長が高い気がするが、実のところ、俺が低いのだ。そのため、同級生の檻から脱出できなくなってしまった。


「趣味はなに?」

「どこから来たの?」


 そんな質問と同級生に囲まれ、俺はただ、人混みに揉まれるしかなかった。

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