日系異世界人編
第11話
ぬおおおおおおおおお。
地獄だ。病み上がりの人にすることじゃない!
俺たちは今、草原を走っている。間に合わないからと言って、この距離を普通は走ったりしない。
「遅い! 気合を出せ!」
なんだぁ? あいつの異常な体力は。恐らくスキルの影響だと思うけど……。
しばらく走っていると、鬱蒼とした森が見えた。ここが、『トゥーカイドゥ小道』。ここを出ると、『日の本帝国』に着くのだが、ここは人斬りが多発している小道でもある。さらに遭難しやすいらしい。最悪の小道だ。
「よし! 行こう!」
「まて、地図はあるのか?」
「ない。」
そんなところだと思ったよこの野郎。
しかし、ゼンは人の話も聞かずに、小道に入っていってしまった。
「おい!」
俺は慌てて追いかけた。
さっきから『ヒュン、ヒュン』と、風を切る音がするのだが、まぁ気のせいだろう。
うん、気のせい。
ガサガサ
何かが動いている音がするけど、気のせいだよなうん。
「あ!」
ゼンが、急に声を上げた。
「どうした?」
「ハッハッハ! 迷った!」
「な。」
嘘だろこいつ……。もう迷ったのか! 自分で連れて行くとか言いながら迷ってちゃ、世話ねーだろ。
俺は頭を抱え、ゼンは笑う。そしてここは森の中。傍から見たらなんともいえない光景だろう。
そして……刀を口に咥えた狼が現れた。
「グルルルル。」
「「なんだ狼か。」」
「グラァ!」
「「なぁぁぁぁぁぁ!」」
俺とゼンは逃げ回る。狼は刀の揺れる音を出しながら追いかける。
「おい! お前ヒーローなんだろ!?」
「いや、私は弱きを助け、強きも助けるヒーローだ。あれに助けはいらん!」
「なんだよその理屈〜!」
「君こそ強いんだろう!?」
「そこまで強くねーよ! 入学する前に怪我したらどーすんだ!」
そんな言い争いをしていると、背後でドタっという音が聴こえた。
振り返ると、そこには刀を咥えた狼が横たわっていた。
よく見ると痩せている。可哀想に。
「成程、飢えていたのか。これを食べると良い。」
そう言いながらゼンは近づき、狼に千切ったフランスパンを与えた。
たちまち狼は立ち上がり、元気に森の中を走り回る。あのフランスパンはどうなってんだよ。ちょっと食べてみたいかも。
「あ、時間がない。あと一時間もないな!」
「えー! どーすんだよこの状況!」
コイツには準備という言葉はないのかー! くそ~っ!
なんて思っていると、ゼンの右手に二つの丸めた地図が現れた。
「持ってるじゃねーか。」
地図をふんだくる。そして二つの地図を地面に広げた。
内容こそ同じだったが、上に書いてある文字が違った。
『絶対に迷わない地図』と、『絶対に迷う地図』だ。
一瞬疑問に思ったが、謎はすぐに解けた。そうか、ゼンのスキルは矛盾を創るから、矛盾を成立させるために、二つ出るのか。
ゼンが絶対に迷う地図を手に取る。
「よし、この通りに行こう!」
「上の文字見ろよ!」
やっとついた。ここまでずっと歩いてきたせいか、どっと疲れてしまった。
巨大な門を前にして、ゼンはなんの躊躇いもなく門を押し開ける。
そこは、学校の教科書で見た事のある、明治のような景色が広がっていた。
アパート程の大きさの建物が並んでいる。
すげー。言葉が出ないけど、なんか新鮮だな。
奥には、巨大な学校があった。周りと違って西洋の感じが強い。恐らく、あの学校は別の国が建てたのだろう。
「急げ! もう十分もないぞ!」
「嘘だろ!?」
俺とゼンは、学校に向けて走り出した。
学校に着き、今は制服に着替えている。
ゼンはその間、学長にサーマルの書きつけを渡していた。
制服は襟シャツにネクタイ、ローブである。甚平とか着物じゃなくてよかった。お陰ですぐに着れた。
というより髪がだいぶ伸びたな。もう肩に掛かっている。切りたかったが、あまり切らないほうがいいらしい。
着替え終わり、学長室に入ると、学長が待ってましたというように、学長室にある大きな扉を指差した。
「あそこが実技会場です。教師が一人配置されています。武器は持ち込み禁止です。」
仕方なく武器を足元に置いた。けちだなぁ、少しぐらいいいのに。
「ご武運を。」
扉が開かれる。
中は鋼鉄の壁、上にはモダンな照明。そして中央には、ガタイのいい大男が仁王立ちしていた。
「今日はお前が相手か。かなり楽しめそうだな。」
なんだろう。昔はあれで驚いていた気がするけど、化物見すぎて反応できなくなってる。
このまま始めるのもあれなので、思ったことをそのまま口にしてみた。
「俺は、相手が脳筋みたいで安心したよ。」
「チビのくせに、言ってくれるじゃねぇか。」
こういうやつには、カウンターだな。だいぶ結界も操れるようになってきた。
「お前がどう謀ろうと、無駄なこと! 俺の筋肉の前にはどいつも敵わない!」
その男は俺に向かって走り出す。Tシャツの上からでも筋肉が揺れ動いているのが分かった。
そして俺は、拳に力を込める。
「喰らえ!」
俺の直前まで近づいた男は、拳を振り上げた。
俺は咄嗟に姿勢を低くし、男の腹を殴りつけた。
「鬼神の拳!」
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