第10話

 やっと土煙が晴れた。

 様子を見たが、まぁ酷かった。サーマルの脚を起点に、大地震が起きたみたいになっている。

 あ、ものの見方が変わるねこれ。タキオンばっか見てたけど、もっと上がいた。脚で地割れを起こせる人間なんて聞いたことない。どんな修行を積んだらこうなるんだろ。

 敵国の兵士達はいなくなっており、事実上の戦争終結となった。

 なんか、すごく呆気ない。

 どうやらサーマルの異名は、「鬼のサーマル」だけでなく、「神友のサーマル」という異名もあるとのこと。神と友人になれるほど強い……という意味らしい。そう呼ばれるだけあって、あの強さ。

 サーマル、どこぞの宗教団体の教祖より教祖できそう。

 そういえば、ラファーガがいない。取り逃がしたのは痛いけど……しょうがない。うん。




 その後、建築系のスキルを持つ者たちによって大規模な病院が作られ、俺を含む多くの兵士が治療を受けている。

 俺は全然元気なのだが、重症度では上位に入るとのこと。

 治療は三週間の絶対安静と、スライムを溶かした魔液点滴とのこと。この魔液、たまに動くのだ。不気味でしかない。




 それから二週間が経ち、サーマルが病室にやってきた。いきなり来たもんで驚いた。そして、勝手に話し始める。

「俺は、若いときは様々なところに行った。だから、色んなところにコネがある。お前ら三人……特にお前はかなり強くなった。だが、まだ足りない。あのタキオンの馬鹿が、考えていることは大体わかる。次行く場所からは、敵の強さも段違いだ。」


 ふーん、そーなんだ。と、聞き流していたが、こんなことをサーマルは言い出した。


「そこでだ。今までのコネを使って、お前らを丸三ヶ月、徹底的に鍛え上げる。エスト、お前は、日の本帝国の中等学校に入学してもらう。」

「は?」


 いやいや、冗談だろ。そんなー。冗談は勘弁してほしいって全く。


「筆記試験は……俺の力でパスさせておいた。後はお前の得意な実技。一週間後、治療が終わったらすぐに迎え。道案内は、ゼンという男が申し出てくれた。」

「え、本気?」

「俺が本気でないとでも?」


 え、本気なの? マジで言ってる? マジかぁ〜。えー。しかも道案内ゼンって……人選間違ってるだろ。

 なんてことを考えていると、パンフレットを置いてサーマルは出て言ってしまった。


「そこらへんはまんまタキオンだな。」


 パンフレットを開く。

 どうやらかなりのエリート校で、全寮制らしい。その名も、『神日学校』。

 てきとーにつけてそうな名前なのは気になるが、結構教育がしっかりしているようだ。特に戦闘面。授業は主に、『文学』、『戦闘学』、『スキル学』、『歴史』、『数学』、『読心学』、とのこと。すごいや。

 窓から光が差し込んだ。窓を開けて外の風景を眺める。

 二人はどうしているかなぁ……。




 その頃、タキオンは。

 魔物が無限に湧く離島、『ヤッスメナーイ島』に配属されていた。

 この島は魔物が際限無く湧き続ける。空を飛ぶ魔物も湧くため、魔物を離島から出さないように、護国軍のエリート兵士達が約十人、配属される決まりになっていた。


「新入り! 気を抜くな!」


 流石のタキオンも苦戦を強いられていた。そこに湧く魔物は全てが準一等級魔物以上。腕っぷしだけは魔王級とも言われる、強力なモンスターの巣穴に。




 一方、マイムは。


「サーマルにこんな奴を押し付けられるなんて……。ぼくのことも考えてほしいよ。」


 勇者、リーンのパーティに所属する召喚士、ラーリアのもとで訓練を受けていた。


「ほら、召喚するときは、隙が生まれるから。腰を低く、目線を上に!」

「ひええ〜!」


 休憩なしのノンストップ訓練。マイムは体も、心も悲鳴を上げていた。




 それから約一週間後。俺は完全に回復した。むしろ前より調子が良くなった気がする。

 今日は退院する日。ゼンがやってきて、大量のフランスパンを渡された。

 いらんと突っ返すと、目の前で食べだした。どこまで礼儀のないやつなんだろうか。


「まぁ、良かった! 君とは一度会話をしてみたかったんだ!」


 へーそうですか。もうお前に言うことはねぇよ。言いたいところがありすぎるからな。


「スーパーウルトラドラゴニックスペシャルゴッドサスティナブルヒーローの私は……格好いいか?」

「その度胸が格好いいさ。」


 てきとうに返事をしたが、ゼンは満足そうだった。




 無事に退院の手続きを終えた。するとゼンが、


「よし、徒歩で向かうぞ!」


 とか訳のわからないことを言い出した。いやいや、無理でしょ。めっちゃ遠いらしいけど? 

 しかし、只今戦後。物価が何故か爆上がりしているので、徒歩で行ったほうが大幅な節約になるとのこと。

 ちなみに、その通るルートには、人斬りが多発している小道もある。


「こっ……これは身を案じてルートを……。」

「所定の時間までもう時間がない! 走っていくぞ!」

「なぁぁぁぁぁ!?」


 本当におかしい。普通の人間はもっと身を案じたり、計画を立てたりするものだ。ここまでできない人間は、少なくとも俺の知っている中ではいない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る