第9話

 ゼンがしっかり仕事をしてくれているので、雑魚狩りを始める。

 しかし、ここまで生き残った者は、雑魚ではなかった。一人一人がマグロだった。剣を振り回し、ダメージこそ与えているものの、頑丈なやつが多いのだ。

 突如、巨大な剣が俺の真横に振り下ろされた。その剣の持ち主を。持ち主は、巨人だった。

 クジラじゃん、あんなの。勝てっこないって。


「よくも私の部下を〜!」


 巨人の兵士は剣を振り回す。その剣は、地面にヒビを何度も入れていた。

 当たらなくても、近くにいたらまずいな。

 突然、巨人の剣が真っ二つに切れた。切ったのは、タキオンだった。


「これが噂の巨人か! と言っても、大した事ないな!」


 助かった。あんな奴の相手してたら、命がいくつあっても足りない。


「よっと。」


 俺の真横にハーミットが降り立つ。マイムを抱えていた。


「はい、ルイマだよ。」

「マイムな。」


 ハーミットからマイムを受け取る。ちらっとフェローチェを見やる。倒れていた。

 やばいじゃん。寿命削った後だぞ。負担は半端ないに決まってる。

 俺は、フェローチェを。流石にフェローチェとマイムは重い。だが、俺は決めたんだ。


「絶対に、もう孤独にさせないからな。」


 一歩一歩と、歩みを進める。


「待ってろよ。優花ゆうか!」




 第三軍の拠点についた。二人を医師に託すと、一気に力が抜けて倒れる。


「大丈夫ですか!?」

「あー、もうだめだ。疲れた。」


 そしてそのまま意識が……遠ぬがなかった。残念。このまま気を失ってたら、うまい具合にサボれたのに。


「とりあえず、こちらの方の処置をしておきます。なので、ごゆっくりと―――。」

「行く。」


 俺は立ち上がった。行かなければならない、ここで行かなければ、多分きっと絶対に後で後悔する。

 なら、せめて少しでも後悔を拭き取ってやるよ。     

 さっき、妹のことを思い出した。あれはきっと、意味だったんだと思う。 

 俺は、テントを出た。




 その頃、サーマルは。


「ぐぁっははは!」

「何が可笑しい。」


 笑いながらも、リーンの剣を素手で軽々と受け、ビームをなめらかに避けていた。


「はーっはっはっはー! ……。悪いな。少し、昔の事を……、プッ、ぐぁっははは!」

「何が可笑しいのかと聞いている!」


 それでも笑い続けるサーマル。動きは常に真剣であるため、リーンは非常に腹を立てていた。


「いやーっ、はっはっは! 俺の昔の知り合いに、もの凄く可笑しい奴がいてな。そいつを今思い出しちまって、はーっはっはっは!」


 サーマルは笑いながらも話し出す。


「あいつはなぁ。いっつも飯を手掴みで食べててなぁ。ふふっ。あんまりにも手が汚れるもんだからスプーンをやったんだ。そしたらな、はーっはっはっは。」


 サーマルはポケットからスプーンを取り出す。そして、柄ではなく、先を持つ。


「こんなふうにして、あいつはスープを掬ったんだ。ほんの少しのスープを口に入れてなぁ。あいつは目を真ん丸にしてこう言ってた。『うまぁ! これすげーな!』ってな。でもな、スプーンの柄尻をあいつは噛み切ってて、それでうまいうまいってスプーンをどんどん食ってくんだよ。スープじゃなくてスプーン、どんなギャグだよ! ってな。その時のあいつの表情は、くくっ、忘れられなくてよお。」

「何故今そのようなことを思い出す! 油断していると――――。」


 サーマルはやっと笑いを止めた。


「俺のスキルがいってんだ。ここにあいつが来てるってな! もし、本当に来てたら――――この世界は、可笑しくなる!」


 サーマルは、昔の約束を思い出していた。




『もう、なかなか会えなくなる。だから、次会うときまでに成し遂げることを決めよう!』


 サーマルは、その言葉にこう答えた。


『じゃあ俺は、この世界で最強になる!』

『変わってねぇなぁ、サーマルは。俺はな。』


 その人物は大きく手を広げる。


『この世界を、サイッコーに面白くしてやるよ!』

『ははは! お前らしい!』


 その人物はその手順を話し出す。その後散々二人で笑いあい、二人は握手をする。


『『約束だ!』』


 夕日が優しく二人を照らしていた。




「あいつが来るのか……懐かしい。そうなれば、」


 サーマルは、右足を強く地面に打ち付ける。地響きが起きた。


「こんなくだらない争い。終わらせなければな。」


 地響きは地割れとなり、その地割れは、敵の兵士達を次々に落としていく。

 圧倒的なパワー、そして正確性。その地割れに使われた脚、そして剣を受け止めていた拳に、結界とスキルは使われていなかった。




 土煙が……。

 俺は戦場へと歩みを進めていたが、突如、爆音と共に現れた土煙により立ち往生する羽目になっている。

 なんだ? 大爆発でもあったのか?

 何も見えない、本当に。

 すると、ビームが飛んできた。慌ててそれを避ける。すると、ビームの通った道は土煙がなくなっており、そこを勇者のグループが走り去っていった。

 あれが勇者か〜。本音を言うと、結構かわいい。さっき唐突に名前を思い出した俺の妹も、結構可愛かった記憶があるが、あれと競えるレベルだと思う。

 それより、この土煙、いつになったら晴れるんだ?

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