第8話

「はーっはっはっは、はーっはっはっは!」


 ゼンはステータスとスキルを見せびらかしながら、笑っている。

 ゼンを除く戦場にいた全員がなんとも言えない目でゼンを見ていた。

 いや……《矛盾生成》って破滅クラスにあったよな? でももう一つのスキル、《最狂》が邪魔をして、変に無双できないようにストッパーがかかってるし。

 とりあえず、危険スキル図録を開いてみる。目次に、《最狂》はあった。

 見てみると、『特記欄』にあった。まさに《最狂》の為だけにあるような。


『使用者の狂い方に大きく左右される。スキル停止装置ブロッカーを使っても、ノリで全自動発動できるので、捕獲は不可能。』


 次に《矛盾生成》を探してみる。


『あらゆる矛盾を生み出すため、結界などでは防げない。唯一無二の、結界を超越するスキルである。』


 めっちゃ強いのと、ビミョーなのが揃ってるな。まぁ、だからこそ、ラファーガを吹っ飛ばせれたのかもしれないけど。


「さぁ、俺の凄さがわかったら、とっとと争いはやめて、フランスパンを食べるんだ!」


 ゼンがフランスパンを四方八方に投げる。かなりズレてない? こいつ。とりあえず、フランスパンは受け取っておいたけど。


「ゼンって言ったね、何しに来たんだい?」


 ラファーガが警戒しつつ話しかける。


「何って、決まっているじゃないか! この戦争を、止めに来たのさ。」


 ラファーガはツタを周りに生やした。


「邪魔するなら、許さないけど。」


 鋭いツタがゼンに襲いかかる! すると、ゼンの右手に盾が現れ、全て弾き返してしまった。


「弱きを助け、強きも助ける。それがヒーローだ。だが、」


 ゼンの左手にフランスパンが現れた。


「助ける、という行為に、暴力は含まれる。」


 ゼンは、素早くラファーガに近づき、フランスパンで弾き飛ばした。

 え、あいつのステータス、かなり低くなかったか? それでこれ……?


「なんで、ラファーガを弾き飛ばせたんだ。」


 無意識に口が出た。それにゼンは反応し、答える。


「身体能力が及ばなくとも、いくら相手が優れていても。表面を除く全てが勝っていれば、それは、勝利さ。」


 なーに言ってんだあいつ。まぁ色々ぶっ飛んでるけど、なんとかなった。




 その頃、アルカナ王国では。


「かなりの実力だな。」


 光の魔王と、マイムが対峙していた。遡ること少し前――――。

 光の魔王はアルカナ王国にある、とあるものを求め、王国に入った。

 しかし、極度の方向音痴であったため、先にマイムに発見され、現在に至る。


 黄金色に光輝く鎧と、強力に発光するスキル。それは常人であれば、一時的に目が見えなくなるが、寝ながら戦うマイムにとっては、非常に好都合だった。

 そこへ、更に物事をややこしくする者がやってくる。


「どこー!」


 ハーミットであった。エストを迎えに来たつもりであったが、既にその姿は無く、王国中を探し回っていたのだ。


「ねぇ! これぐらいの背の高さで、髪が白色で、護国軍の格好していた人見なかった!?」


 気軽に光の魔王に尋ねる。


「言われてみれば……見たな。しかし、もう移動していると思うがな。」

「そっか! 情報提供ありがとー!」


 ハーミットは走り去ろうとしたが、光の魔王はハーミットの頭を掴んだ。


「貴様……我を油断させおって……!」

「え、あ、あ、ごめん。ごめんってぇぇ!」


 ハーミットを冷や汗を滝のように流しながら答える。光の魔王は、ハーミットを投げ飛ばした。

 しかし、投げ飛ばされたにも拘らず、ハーミットはスタリと着地する。


「投げ飛ばす相手は、選んだほうがいいよ?」


 ハーミットは素早く弓を引絞って、矢を放つ。しかし、黄金色の鎧には全く効かなかった。すると、霊兵が背後から魔王を襲う。それを軽々と払いのけ、魔王は薙刀を振り回した。


「弓効かないのかぁ、でも、ただの弓じゃなかったら……?」


 魔王の足元に、黄色い巨大な魔法陣が現れた。怪しい光からは、どこか神々しさも感じる。


「動けない……。必中ときたか。」


 ハーミットは矢を天に向け放つ。その矢は重力に逆らい、上昇し続けた。


「暫くやってないからなぁ。上手くいくかなぁ」


 ハーミットはそう言った後、謎の呪文を唱え始めた。

 唱え終え、ハーミットは飛び跳ねた。


「やったぁ! 上手く行った!」


 すると、魔王の真上―――そこから一本の矢が降ってきた。しかし、ただの矢ではなく、幾つもの宝石を纏い、輝いている矢であった。


「じゃあ、またね。」


 ハーミットはそう告げ、その場を去っていった。

 魔王は薙刀を頭上で回転させる。


「あのような矢、吹き飛ばしてくれる。」


 魔法陣から、一つの巨大な光の柱が立った。


「あー。ちょっとやりすぎたかなぁ。」


 遠くでその様子をハーミットは眺めていた。


「にしても最近は、『正義セイギツドヤカタ』の連中達のお陰で、彼ばかり有名になって困るよ。人々の目を輝かせれる僕を無視してさ。」


 ハーミットは、こっそりマイムを連れてきていた。


「この娘、流れ的にエストの仲間なんだろうな。多分、えーと、マイム? いや、マイル……? あ、ルイマだ!」


 ハーミットは、新聞こそ読んでいたものの、名前を覚えるのが不得意だった。

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