第7話

 あれはまずい。今から行っても間に合うか?

 俺は緑の大地を駆ける。負担はでかいけど、使うしかない!


「【変幻自在】ディープドラゴン!」


 背中に翼が生える。俺は空へと舞い上がった。

 上から見るとそれはそれでかなり仰々しいな。でも動いている様子がない。もしかしたらハーミットとかが何とかしてくれているのかもしれない。

 俺はとりあえず、最も近い第三軍のテントへ向かった。




「俺だ。」


 第三軍のテントに入ると、怪我人が大勢横たわっていた。医者が近づいてくる。


「貴方でしたか、大変なんです! フェローチェさんが傷が治って……消えました!」

「はぁ!?」


 確かに、フェローチェは腐ってもタキオンの妹だし、無鉄砲なところもあるかもだけど!

 あの重傷だぞ! 回復薬でも普通治らない!


「いや……でも、?」


 なぜか心当たりがあった。もしやと思い、危険スキル図録を開く。危険度、破滅クラスの前である、革命クラスにそれはあった。



《魂削》

・自らの寿命を削る。

・使用者は一時的な、身体能力大幅上昇、即全回復、テレポーテーション、他のスキルの能力上昇の恩恵を受ける。


備考

 使用時には、使用者の額に赤い紋様が見られる模様。



 流石にこれを使ったとは考えたくはないが、もし使ってたら、どう考えても無茶だ。そしてどこに行ったか、これはタキオンの妹と考えれば、難しくはない。

 俺は植物の波に目を向ける。間違いなくあそこだ。

 トップスピードで翔んでいく。すると、植物の上に乗り、剣を構えるラファーガの姿が見えた。

 何かと戦っているような感じがするが、何だ? 素振りではなさそうだし……。

 よーく目を凝らす。一瞬人の姿が視えた。間違いない。フェローチェだ。恐らくテレポーテーションを乱用しているんだろうな。

 だが、あのままだと、身体が保たない。止めに行きたい……けど、間に入ったところで恐らく止まらない! どうする!


「おい!」


 下から声がしたので、見るとタキオンが居た。


「そこに居るんだな、フェローチェは!」

「ああ、だが、恐らく寿命を削るスキルを使ってる! このままだと駄目だ!」


 するとタキオンが植物の波を登り始めた。無茶だろ。


「大丈夫だ! スラッシュはハーミットとかいう奴に任せている!」


 そういう問題じゃないんだけどな! この植物、棘があるから触るだけで傷を負う。お陰でタキオンのスピードも落ちてる。

 じゃあ俺はどうするかだ!


「フェローチェとか言ったね。なかなか腕利きのようだが、本気を出させてもらう。」


 ラファーガの剣がすすきの剣に変わった。フェローチェのテレポーテーションをしっかりと読み取り、攻撃を防いでいる。


「スキルには、産まれつき、所持しているものと、経験によって手に入れるものがある。」


 ラファーガは片手を挙げた。すると、この世のものとは思えない程の大きさのツタがフェローチェを拘束する。てか、あれツタというより丸太だろ! あれでしなるとかどういう性質してるんだよ!

 ラファーガはゆっくりフェローチェに近づく。


「産まれつき、所持しているスキルには、所持している者の強さに比例するものがある。そして、強さに比例するスキルは、稀に使用者の強さを超える能力を発揮する。」


 ラファーガはフェローチェの顔に手をかざした。まずい! 何かするつもりだ!

 俺はすぐにラファーガの方へ向かう。


「テレポーテーションは、手足の自由が効かないと使えないからね。今から放つのは花粉だが、猛毒だ。」


 間に合わない!

 ラファーガの掌から花粉が噴出された。


「やめろーぅ!」


 突如、ラファーガにフランスパンが衝突し、ラファーガが吹っ飛んだ。フランスパンだ。しかし、ただのフランスパンではない。人間と然程変わらない大きさのフランスパンだ。

 それに、ラファーガは反射的に結界で防いでいた。それを結界を纏っていないにも関わらず、ラファーガを吹き飛ばした。

 わからない事だらけだ。

 すると、フランスパンが立ち上がる。フランスパンには、手足があった。顔も。

 それは、フランスパンの着ぐるみを着た人間だった。


「強きを助け、弱きも助ける! スーパーウルトラドラゴニックスペシャルゴッドサスティナブルヒーロー! 実方じづかた ぜん! 否! ゼン・ジヅカター!」


 戦場が凍りついた。三十代近くの男が、フランスパンの着ぐるみを着て、幼稚な決め台詞的なものを述べたら、そりゃ凍りつく。


「ふははは! 凄すぎて声も出ないようだな!」

「「「「「しょーもなさすぎて声が出ないんだよ!」」」」」


 戦場にいる全員が敵味方関係なくツッコんだ。

 何だ、あの水ではなくバカが七割占めてそうなバカは!


「大丈夫かい? 嬢ちゃん。」

「は、はぁ。」

「「「「「ちょっとは気にしろよ!」」」」」


 めっちゃ気が狂うな。あいつ何なんだよまじで。名前のニュアンス……というか確定で日本人だな。なんか……こんなやつと同じ国にいたなんて……。


「君は、何なんだよ。」


 植物から落とされたラファーガが、塵を落として立ち上がった。


「む! 俺か! 俺は、強きを助け、弱きを――――」

「そうじゃない。何故あんな強いのかと言っているんだ。」


 確かに。めっちゃ気になる。


「ふ、これを見るがいい! 凄いぞ。」


 ゼンはステータスを出した。




ゼン・ジヅカタ

レベル 1

攻撃 50

防御 40

移動 30

精神 50

結界持ち

スキル

《矛盾生成》

・ありとあらゆる矛盾を生成できる。

・矛盾が成立してしまうと、強制的に使用が止まる。


《最狂》

・最も狂っている者

・所持者は自らのスキルを認識できない。代わりに、ノリに合わせて自動で発動する。

・所持者は自らがスキルを自由に行使できないことを不思議に思うことができない。




 なんだこの色々残念な奴ー!

 この世界に来る前でも、後でも、俺はここまで驚いたことはなかった。

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