第6話

 タキオンはスラッシュとほぼ互角に渡り合っていた。


「ふむ、これ程の強さがあって、なぜ大将でないのかが謎だな。」

「本気出して無いくせによく言うもんだ。こっちはスキル使い続けてんのにな。」


 槍と刀は全くスキなく、打ち合いを続ける。

 辺りは、塵一つも積もらなかった。




 ハーミットは完全に腕を止めていた。ただ、ヒストラーを表情の読めない目で見つめる。


「もしかして、バレちゃった?」


 ハーミットがついに、口を開いた。先程までの緊張とは比べ物にならない程、間抜けな声で。


「困ったなぁ、お忍びのつもりだったんだけど。」


 辺りをてくてくと歩き回る。それを怪訝そうにヒストラーは見つめていた。


「じゃあ、誰にも言わないでね。彼女がいないとはいえ、ここに来ていた事がバレると色々困るから。」


 ハーミットの右腕が黄色く発光する。その光は空気を微かに揺らした。

 そして一歩一歩、ヒストラーに近づく。


「何をする気だ。」

「ちょっと心配だから、最低限のはさせてもらうよ。」


 ハーミットの手がヒストラーの額に触れる。そしてヒストラーは気を失った。


「こっちは……クリアかな。」




 手際よく、縄で縛られた俺は、戦場のど真ん中である。


「普通、こんなところに放置しないだろ。」


 ぶつぶつ言いながら試行錯誤しているのだが、かなりの技術で結ばれており、全く解けない。

 結界を使う元気は残念ながらないので、運次第である。

 あー。大砲とか飛んでこなきゃいいんだけど。

 すると、ドーン、と重い音がいくつも響いた。目線の先には、黒い大きな鉄球が飛んできていた。げ! 身をよじらせてなんとか避けようとするが、間に合わない。

 流石に覚悟した次の瞬間。球が跳ね返った。


「全く、誰に大砲を撃っているんだ。」


 正直、こいつにここまで感謝する日はきっとない。テイゾウ、ありがとう。


「大丈夫ですか?」


 縄がテイゾウによって解かれる。立ち上がった。当りを見まわす。


「大丈夫ー?」


 ハーミットが駆け寄って来た。そして、転んだ。すぐに立ち上がり、俺に抱きつく。


「ごめんね。すぐに行きたかったんだけど。」

「大丈夫だから、な。」


 その光景を、テイゾウは不思議そうに見ていた。


「それは……魔物か? よく分からないので、一時的に捕縛させてもらう。」


 そっか、知らない人から見れば、よくわからん生き物だもんなこいつ。


「してもいいけど……上の人に気づかれたら、自刃じゃ済まないよ?」


 ハーミットが鋭いのかよく分からない目つきで睨めつける。流石のテイゾウも引いた。

 というか、ハーミット、あの科学者をなんとかしたのか。強さ読み違えてたな。ハーミット、めっちゃ強いじゃん。


「あ、君はラファーガの所に行って。相当まずいことになってる。」


 ハーミットが急かす。マジでか。俺はすぐにハーミットに乗った。先程より更に速く、ハーミットは駆ける。神速とでも言おうか、一瞬で着いてしまった。


「じゃ、これで。」


 ハーミットは戦場へと戻っていった。ラファーガの方を見る。にしても凄いな。この世の戦いとは思えない。

 木や鋭いツタが幾つも地面から生え、その地面は抉れている。

 ラファーガと魔王の戦いは、ついていけなかった。というか、あんな強かったっけ、あいつラファーガ

 流石に一人はまずいな。マイム達と合流して何とかするか。

 二人に気づかれないように王国に入る。

 中は……こっちはこっちでまぁ、凄かった。

 なんと、第四軍はハルシオンの軍と、魔王軍を圧倒していたのだ。優勢なのが見るだけでわかる。


「アオさん!」


 一人の兵士が駆け寄ってくる。なんと、いつか会った少将、ベルストだった。


「これを。」


 なんと、どういう因果か、マイムが抱きかかえられていたのだ。マイムを受け取る。


「此方はもう片付きます。そちらはどうですか。」

「魔王とラファーガが衝突して、面倒な事になってる。出来るだけの兵士を連れて行きたい。」


 ベルストは少し間を置き、頷いた。


「第四軍の兵士達! ここをすぐに片付け、戦場へ向かえ!」


 兵士達はこっちを見た――――が、スルーされた。今度はマイムを抱えあげ、顔の前にマイムを持ち上げる。まるで、マイムが言っているようにするのだ。


「第四軍の兵士達! ここをすぐに片付け、戦場へ向かえ!」


 今度は「オー!」とばかりの、歓声と雄叫びが聞こえた。

 マイム、こいつらに何した。何したらお前だけでそこまで士気が上がるんだよ。いや、今はそんなこといいか。


「じゃ、俺はこれで。」


 俺はそう伝え、国を出た。

 しかし、そこには植物の塊しかなかった。肝心のラファーガと魔王の姿がないのだ。

 あれー、どこいったんだろ。

 辺りを見回す。戦場が目に入った。そこまでは良かったのだ。戦場の中で植物の津波が動いていた。

 堪の良さを憎むしかない。どうやら、ラファーガは既に移動していたのだ。


「ハーミットがなんとかしてくれればいいけど……。」


 俺は走って戦場へ向かった。




 戦場では、一人の少女がラファーガの動きを止めていた。


「君は必要とされるべき人間なのに、君は、数分保たないよ。保っても、その後、息があるか……。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る