第4話

 上空に放り出された護国軍兵士――――およそ、二千人。

 全員、軽傷で生き残った。

 遡ること、数秒前……




 兵士達は、マイムの策戦を信じ切っていた。地上では、霊兵達が三つの川を拡げていた。小さな川だったが、百人超えの力であっと言う間に拡げてしまう。しかし、兵士達全員は入らない。そこで霊兵達は、敵軍が入ってきた穴を水で埋め始める。その穴は、先程広げた三つの川と、壁に挟まれていた。

 次に、霊兵達は、川の中、穴の中と、四つに分かれ、水上から手を出した。そのうち、一人の霊兵が穴の前に立ち、敵の注意を惹きつけた。すると敵兵が爆弾を投げつける。

 上空にいた兵士たちは固唾をのんだ。地上はもう、すぐそこまで迫っている。


「いっくぞー!」


 マイムの楽しそうな声に、兵士は元気づけられた。必ず成功する、そう信じて。

 兵士達は突風に見舞われた。敵兵が投げた爆弾が、爆発したのだ。そして四方八方に吹き飛ばされる! すると次の瞬間。兵士たちは全員、着水した。なんと、マイムの策戦は完璧といっていい程に上手くいったのであった。

 水は、ある程度の衝撃なら受け止めれるが、かなりの勢いをつけて落下した物の衝撃までは受け止めきれず、鉄の様に硬くなる。だから、霊兵達の掌で衝撃を抑え、着水させたのだった。

 少しの沈黙。そして兵士たちは狂喜乱舞する。


「生き残ってやったぞー!」

「まだ、生きてる!」

「我らが隊長! 何処までもついていきます!」


 マイムは誇らしげに――――寝ていた。兵士の一人がそれを抱きかかえる。


「今となっては、この寝顔も、女神の微笑みの様に見える。」


 兵士たちは更に闘志を漲らせた。


「敵軍を追払えー!」

「我らには神兵、ウミ隊長がついてるぞー!」




 凄い光がしたと思ったら、何なんだこの歓声は。

 俺はゆっくりと起き上がる。くそっ、目があまり見えない。


「狙撃用意!」


 カチャ、と金属音が鳴り響く。銃? しまった!  逃げなければ!


「撃て!」


 パン! と乾いた音が鳴る。しかし、痛みも衝撃も、何も感じなかった。やっと慣れてきた目で見ると、俺の周りを植物が囲っていた。


「邪魔をするなら、魔王であろうと本気を出すが?」


 ラファーガが防いだのだ。悔しいけど、今回ばかりは感謝しなきゃな。


「厄介だが、まぁいい。鉄砲隊、アルカナ王国へ迎え!」


 鉄砲隊!? ということはあの魔王か。

 植物がはけてその姿が顕になる。光り輝く黄金の鎧。素顔は見えないが、かなりの大柄であった。


「戦場に戻れ、植物の壁は解除しておいた。」


 ラファーガがそっと耳元で囁く。よし、向かおう!

 ハーミットはというと、どう考えても堅物そうであったレブルと打ち解け、歓談していた。何が起こったんだ、あの短時間で。


「ハーミット! 戦場まで連れてってくれ!」

「あ、分かった! じゃあレブル、また後で。」


 レブルに別れを告げたハーミットは、俺を乗せて走り出した。




 戦場では。


「気をつけろ! あいつは強――ぐあぁ!」


 タキオンが多くの敵兵を倒していた。その強さは、戦場の将軍にも届く。


「報告いたします! 此方の被害、現在五万人! 内二万が……。」


 兵士は言葉を詰まらせた。将軍は眉を上げて怪訝そうに見つめる。


「申してみよ。」

「『コウ』という無名の兵士に……やられております……!」


 将軍は何も言わずに立ち上がる。そして戦場へ向かった。


「あの冒険者たち……下手に近づいたら死ぬな。騒がしいけど、後回しだな。」


 タキオンは雑魚処理を大方終えていた。


「誰に近づいたら死ぬと?」


 タキオンは振り返る。そこには最強と呼ばれる剣豪、『スラッシュ・スローネス』が居た。


「お前らに近づいたら……な。」

「我々はリーダーに、護国軍の奴らは生かすなと言われている。正解は、近づかなくともだ。」


 薙払われた刀をタキオンは華麗に躱す。そして黒い槍で弾き返した。


「悪いが、お前が最強の剣豪なら、俺は最強の槍使いだ。」




 戦場に着いた。あっと言う間だったけど、これは……。

 彼方此方に兵士が倒れ、奥では激しい戦いが起きている。第二軍の拠点を見てみたが、もぬけの殻だった。


「全滅してなきゃいいが。」


 次に第三軍の拠点に向かう。そこには僅かだが、人がいた。


「タキオ―――いや、『コウ』っていう兵士が何処にいるか知らないか? 第三軍の隊長の。」

「あの人なら、」


 病床から声が聞こえた。そこへ近づく。そこには、かなりの怪我を負ったフェローチェが居た。


「彼処へ。」


 フェローチェが指を指した先は、やはりあの、一段と激しい場所だった。

 できればここで合流したかったが、しょうがない。行ってやんよ。


「ありがとう、ゆっくり休めよ。」

「あの。」


 俺が行こうとすると、フェローチェが呼び止めた。


「無鉄砲な兄に似てるんです、隊長は。だから、助けてやって下さい!」

「心配しなくても、死にはしないさ。行くぞ! ハーミット!」


 ハーミットに乗る。恐らく相手はこれ迄とは比べ物にならないほど強い。だけど、ハーミットがいると、勝てる気がする!

 ハーミットは走り出した。




「まだ安静にしなくては!」


 医者の静止を聞かずに、フェローチェは立ち上がる。

 胴や腕などに巻きつけられていた包帯が、地面に全て落ちた。その姿に医者は目を見張る。回復薬を使ったとしても全治一年―――それほどの大怪我を追っていた、腹部、左腕右足。その他全身に負っていた細かい傷まで、全て完治していた。


「これは一体……?」

「行かなきゃ。」


 フェローチェは、

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