第2話
少しでも速く、行かなければ! 俺は更にスピードを上げる。来た道の通りに木をかいくぐり、進む。
すると、第三軍の兵士と出会った。
「第二軍隊長! お疲れ様です! 何処へ向かわれるのですか?」
「面倒なことになった。第三軍に、厳重な警戒をするよう、伝えておいてくれ。」
「はっ!」
なるほど、こんな感じで包囲しているのか。こうやって、逃げ場を無くすわけね。
いや、今は急げ。俺は先頭で、どんどん進んでいった。
一方、広場では。
怪光線が広場中を暴れ周り、多くの被害を出していた。
「あの女は、もう少し我慢というものを学べないのか。」
サーマルは頭を抱える。誰の仕業かは、おおよそ見当がついていた。
「ほう、老いぼれでも、噂通りの実力だな。」
戦場の中心に、一人の女が立っていた。
「勇者……『緋色』!」
その緋色と呼ばれた女は、緋色の長い髪を後ろで一つに結っていた。左手には、各所にデザインの様に穴が開けられた剣が握られている。
「うーん、折角だ。名を明かそう。『リーン・ブルー』だ。」
サーマルは戦闘態勢に入った。本気を出せば、他愛もない相手だが、油断すれば足をすくわれる。そして恐らく、こちらからは先に動けない。だからこそ、スキを見せなかった。
「ではいぐぞ。《永続的反射砲》!」
リーンの掌から一筋の光が放たれる。サーマルはそれを躱す。地面に当たった光線は反射するかのように跳ね返った。
俺が先陣をきっていると、「ズザァ」という何かが生えるような音が、背後に聞こえた。
振り返ると、俺の後ろはツタや木、その他諸々の植物で覆い尽くされていた。植物がまるで壁のように、戦場を取り囲んでいるのだ。
「やられた! お前らは戦場に戻って戦ってろ! 俺は先に行く!」
こんなことができる奴、一人しか見当がつかなかった。当然、ラファーガだ。あいつが意図してやったのかはわからないが、ここに来ている事は間違いない。逃さないぞ。
俺は全速力で向かった。
王国が見えてくる。しかし王国はすでに植物に覆われていた。少し遅かったか……!
「あー。面倒な事になったなぁ。」
「本当だよ全く。わざわざ森から出てきたのに。」
「「え?」」
顔を右に向ける。そこにはもうソイツとしか考えられない生き物がいた。
「は、ハーミット?」
そう、子供の落書きのような見た目をした、多分魔物のハーミットだ。向こうも不思議そうに見つめていた。
「えー! なんでここにいるの!」
「こっちが聞きたい。」
暴れだしたので、少し落ち着かせたハーミットが、事情を話し始める。ハーミットは常に森の中で暮らしているが、スキルによって森の中で起きていることはすべて分かるらしい。
そこで、たまたま森の中にあった新聞を読んでいると、今回の戦争の記事を見つけたらしく、「戦争をとめる」という大義名分を背負いながら、いつの間にか遊んでたとの事。
何考えているんだか。
「あっ! 俺急がないと。」
「乗って。」
このくだり、あったなぁ〜。俺は遠慮せずに乗る。今はどのような手を使っても、ラファーガを止めなければならない。
ハーミットが並外れた脚力で地面を蹴った。もうこれはダッシュではない。ジャンプだジャンプ。ハーミットがスタリと着地する。
え、ついた。はっっや。下手したらタキオンより速いぞこいつ。いや、絶対にタキオンより速い。
「あいつは! 教祖様が言っていた『デーモン』! 追払え!」
ついたらついたで、『
それはそうとして、あいつらが矢とか銃弾を飛ばし、斬りかかって、「デーモンを追払え!」と言われるのは心外である。流石にそこまでしなくてもいいんじゃないか?
意外と当たらないので、スルリスルリと躱していると、ハーミットが弓矢で一度に全員伸してしまった。あれだけ大勢居たのに。
「弱いなぁ、刃、ついてないのに。」
あ、あれ? 実はハーミットって、結構強い? こんな見た目なのに。普通はこんな簡単に人倒れないと思うんだけど。
俺は王国の目の前に来た。ツタが梯子のように幾つも垂れ下がっている。こうやって登ったんだろうな。
「久しぶり。」
俺は直ぐに声のした上を見上げた。国の塀の上――――そこにはラファーガが居た。ラファーガは塀から飛び降り、華麗に降り立つ。
「随分と強くなったね。気配で分かる。そしてもう一人……見た事のない顔だが―――これと戦うのはあまり気が進まない。レブル、相手をしてやれ。」
「はっ!」
国の塀からもう一人、降り立つ。レブルだ。
「さぁエスト。実力を推し量り合おうじゃないか。」
ラファーガの足元からメキメキと植物が生えだした。前より手数が増えているかもしれない。すると、ラファーガの背後に綺麗な桜の木が現れた。
「催眠桜。」
ふわっと桜の甘い匂いが辺りに漂う。なんだ? 身体がふわふわと……。酔ってもいな……。俺は足が急にすくみ、倒れてしまった。
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