波乱〜大いなる王〜

大荒れ

第1話

 俺は今、大きなテントの中で座っている。結構開戦時間ギリギリだったので、少しドタバタしているが、どうやら俺は指示を出すだけでいいらしい。楽だ。


「隊長! 配置はどうしますか!」

「隊長! 矢が足りません!」

「隊長! もうすぐ夜が明けそうです!」

「早くご指示を!」

「隊長!」

「隊長!」


 やっぱり、大変だった。




 その頃、タキオンは。


「戦場を囲う様に兵を配置しろ! 敵を王国に近づけさせないのが、俺たちの仕事だ!」


 その堂々としたカリスマ性に、兵士達はすっかり惚れ込んでいた。一人を除いて。


「何、あの人。」


 一人の女が凄く不機嫌そうにしていた。兵士の一人が話しかける。


「どうした、フェローチェ。早く配置に動けよ。もしかして、前線に出れなくてふて腐れてるのか?」


 そう、タキオンの実の妹、フェローチェだった。なんと、彼女もここに派遣されていたのだ。

 少しからかった兵士に対し、フェローチェは錆びた剣を素早く首元に向ける。


「おいおい、冗談だって。」


 その兵士は降参の印に手を挙げる。フェローチェは剣を降ろした。


「全っ然違う。私の兄知ってるでしょ。声も口調も何もかもアイツと似てて、なんかイライラしてきた。」


 まぁ落ち着けと差し出された水をフェローチェは一口で飲み、その水が入っていた器を壊してしまった。

 その音が聞こえたタキオンがフェローチェの方を見る。みるみる顔が青ざめた。直ぐにタキオンはそっぽを向いて、逃げるかのように指示を出した。




 一方、マイムは。


「隊長、起きてください。隊長!」


 案の定、寝ていた。きちんと霊兵も出して。

 いくら兵士が揺すっても、マイムは起きない。ただ、むにゃむにゃと眠っている。

 そんな慌ただしい状況でも、一人の老人は笑っていた。


「ほっほっほ。思い出しますなぁ。」


 伸びた髭を撫でながらその老人は呟く。その老人は、サブマージョンにて護国軍少将を務めていたベルストであった。偶然にもここに派遣されたのだ。


「どうしたんですか。ベルストさん。」


 第四軍では、最強の砦として置かれているため、他の兵士も一目置いているようであった。


「いえいえ、私が居たサブマージョンの王女……今は指名手配されておりますが、あの方もこのような人でしてな。直ぐに眠りにつくから――――。」


 老人は懐から果実を一つ、取り出してすり始めた。


「こうやって、果実をすってあげていた―――」

「すり果実ー!」


 マイムが飛び起き、全速力でベルストに突っ込んだ。




 高速で兵士たちの対応を終え、のんびりしていたら一人の兵士がやって来た。今度はなんだよ。


「第一軍の隊長がお目にかかりたいとの事で……。」


 え? 第一軍の隊長?

 断ったらこの先が危ぶまれそうだし通しておくか。

 テントの中に大柄の老人が入ってくる。その老人は、サーマルだった。


「久しい。随分と大物になったな。」


 な。なー!


「サーマル! どうしてここに!」

「来い来いと煩かったから来てやっただけだ。今はシャクネツ地方で隠居しているからな。語尾に『メラ』がないと怪しまれるから、まぁこっちの方が楽だな。」


 なんてこった。サーマルは元々こっちの人間だったのに、俺を鍛えてくれたのか。なんか凄く嬉しい。


「時間がないので本題に入る。新聞社は、四大勢力が衝突するとか言っているが、俺は十中八九、他の勢力も入ってくると見てる。」

「他の勢力……?」


 サーマルはコクリと頷いた。


「お前もよく知っているであろう、『正義セイギツドヤカタ』、ラファーガ・アダマントが教祖を務める宗教団体だ。」

「あいつか! というか宗教団体やってたのか。」


 サーマルは再び頷き、こう言った。


「そこでだ。お前はこちらにて戦うと見せかけ、そのまま戦線を離脱し、奴等が来るであろう正門前に向かって欲しい。」


 なるほどね、そういうわけか。

 俺は髪を兜の中に仕舞う。あいつと戦っていたときは、まだ短かった髪は、ウルフぐらいまで伸びている。それ程、時間も経ったんだな。


「分かった。任せとけ。」


 俺はテントの外に出て、すべての兵に伝えた。


「開戦直後、正門前に移動だ!」


 兵士の雄叫びが聞こえる。サーマルはいつの間にか居なくなっていた。

 すると視界が急に眩しくなり、俺は反射的に目を閉じた。夜明けだ……。

 あちこちから雄叫びが聞こえてきた。戦場に大量の兵が押しかけてくる。

 さぁ、開戦だ。

 その時、凄まじい雄叫びが聞こえた。あまりの凄まじさに思わず耳を塞ぐ。木はなぎ倒され、地面は抉れ、敵兵は何人か飛んでいった。その声の主は、サーマルだった。

 こんな奴と一緒にいたら間違いなく、巻き添えを食らう。行かなければ。

 兵士達がゾロゾロと走って正門前まで向かう。俺も先を急いだ。



「さて、向こうはどう出るか。」


 走って行ったエストたちを見送ったサーマルは、戦況を見ていた。敵国はかなりの頭脳戦を繰り広げる為、少しの動きでも細心の注意を払う必要がある。

 その時、一つの光線が戦場を跳ねまわった。

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