第40話

「何を言っている。」


 レブルは素早く俺の間合いから離れ、剣を収める。


「正しく生きるために、正義を知るのではないか。」

「その正義がおかしいって言ってるんだよ。」


レブルは「はて?」と首を傾げる。


「無秩序に、何でも壊す奴の教えを信じてどうするんだ。」

「分かってないようだな。それは洗礼だ。世の中を正しい世界に導くため、あの方はこの世を洗礼しようとしているのだ。」


 俺も剣を収める。


「正義、正義って。そりゃそうだよな。正義はいくらでも唱えられるんだから。それでも、何が正義か、何が悪かよりも、俺は大切なものを護れる強さがあれば充分だ。」


 レブルに一歩ずつ歩み寄る。


「組織を裏切って、そこまでして、あんなやつに付いてって、本当に人生楽しいか? 後悔してないか?」

「後悔はしていない。するわけがない。残念だ。」


 レブルは素早く剣を抜き、俺に近づく。その剣は俺に振りおろされた。しかし、痛みを感じない。剣は俺に当たる直前で、静止していた。

 勝手に吹き飛ばされていた、レブルは。誰かが攻撃したわけでもない。恐らく本人の意思でもないだろう。自然法則のように、当たり前のように、吹き飛ばされていた。

 そうだ! こんなことをしている場合ではない! 早く帰らなければ! 足早に階段を俺は降りていった。




 まだ暗い……間に合った……。

 俺は護国軍本部の前でどっと疲れを感じた。まぁそりゃそうか……。あの後、馬車に乗ったは良いものの、途中雪が降り出して大変だったもんなぁ。


「アオ、コウ、ウミ! 早く来い!」


 護国軍の兵士が飛び出してそう言った。

(潜入する際に、仮名かめいを使った。俺はアオ、タキオンはコウ、マイムはウミ。俺が決めたのだ。)

 なんだろう。早く行けってことか?

 俺たちは本部の中に入って行った。




 緊張した空気が張り詰めている。新人にこれはキツイよ。これは。

 なんと、俺たちは会議室にブチ込まれたのだ。中には大将二人、見た事ある顔と、見た事のない顔。

 長机の上には名札が置かれていて、逆立ちをしていた方は『カラアゲ』、見た事のない若者は『ソルト』と言うらしい。

 するとソルトが口を開いた。


「えーとぉ、あのぉ、アオさん達が向かった城を調べさせたんですけどぉ、凶悪犯が居た痕跡が見つかりましたぁ。」


 正体はバレてないみたいだけど、居たことはバレているな。すると次はカラアゲが口を開く。


「しゃんとせい! ソルト! 何と出くわしたかは、お主達が一番分かっているだろう。しかし、奴等が今、これ以上名を挙げては更に混乱が強くなる。よって、お主たちがあの魔王を倒したことにし、お主たちをこの戦争で、アオは第二軍、コウは第三軍、ウミは第四軍の軍隊長を務めよ。」


 え、グンタイチョー? え、大丈夫? 第二軍? 俺、第二軍!?


「いや、それは流石に……。」

「反論はなしだ。」


 これは酷い。


「えっとぉ、それでは詳細を説明しまぁす。」


 ソルトが書類を見ながら話し始める。


「戦いの地は、どこの国にも属さない土地、『救世主の踊り場』で行われるでしょう。そこは、この国に非常に近いため、第四軍はアルカナ王国の周りを包囲してくださぁい。最高戦力である、サーマル元大将率いる第一軍と、第二軍は最前線。第三軍はこの国に近づけさせないよう、バックアップをお願いしまぁす。」


 最前線……だと! それに、なんかどこかで聞いた名前も出てた気がするけど、空耳かな。とりあえず、相手の戦力とこちらの戦力はどうなんだ?


「相手の総戦力は、約百億もハッタリではないだろうな。そしてこちらは、第一軍、四十億、第二軍、十億、第三軍、五億、第四軍、五十億だな。」


 うん、なんだろう。非現実的な数字が飛び交ってるけど、前線少なくない? ねぇ。それと、十億の兵士を指揮するこちらの身にもなってみろよ。


「そうだ。これを渡しておこう。」


 俺達は、一つの書物を手渡された。


『危険スキル図録』


 タキオンが口を開く。


「これは……?」

「これは、護国軍がこれ迄に確認した、危険なスキルをリストアップしたものだ。中には、世界を滅ぼせる物もある。この中に当てはまるスキルを敵方に確認した場合、直ぐに我々大将に報告してほしい。我々が出陣しよう。」


 ふーん。まぁ持っておいて損はないか。パラパラと本をめくる。


『危険度 破滅クラス』


 と云うページを見つけた。

 なんだこれ。これが、世界を滅ぼせるスキルたちか? 更にページをめくった。

 そこにはスキルたちがランキング付されていた。


『1、永続的反射砲

 2、霊兵召喚

 3、謀略

 4、超滑ちょうすべり

 5、矛盾生成

 6、ニワトリ

 7、とても安心で安全で優しいスキル

 8、ご飯は残さずに食べましょう、絶対』


 ナニコレ。タキオンの超滑ちょうすべりと、マイムの霊兵召喚が入ってるのには少し驚いたけど、6と7の『ニワトリ』と、『とても安心で安全で優しいスキル』に関してはネタ枠としか思えないんだが。それより、8のこれ何。ネタとかそういう次元じゃないじゃん。

 ソルトが俺に近づき、『謀略』のスキルを指差す。


「えっとぉ。これはハルシオンの皇帝が持ってる可能性が高いかなぁ。だからぁ、こっちの想定を上回ってくるかもぉ。」


 なるほど、つまりこちらの戦略を上回ってくる可能性があると。

 だめだ。勝つ気がしない。


「とりあえず、持ち場につけ! 夜明けは近い!」

「「「はい!」」」


 俺達は急いで自らの持ち場へと向かい、カラアゲは逆立ちをするのだった。

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