第39話

「おいまて、戦争があるのか。」

「うん、アルカナ王国とその敵対国、それに便乗した魔王と勇者が戦うんだって。」


 俺の馬鹿。なんで少しおかしいことぐらい気づかなかったんだ。あんなに兵士がいるのに、偵察が新人だなんて、おかしいと思わなきゃだめだろ。

 それにしても……厄介なことになったなぁ。


「本当にありがとう。君のおかげで楽になれた。」


 少女は不思議な力で瓦礫をどける。涙を零していた。


「今までいっぱい、辛いことがあったけど……もしかしたら、自分を償わせようとしてたのかも。エスト、君が助けてくれた。」


 少女は笑顔になって、座る俺に抱きついた。


「ありがとう、大好き。」




 これで全部かな。

 城を出てすぐにある土を、なだらかにする。こんなんしかできないけど、許してくれ。

 落ちていた十字架を土の上に刺した。手を合わせる。

 さて、急がなければ。城に入ってタキオンとマイムを叩き起こした。正直戦争には絶対に行きたくないが、あそこまで言われたら行くしかない。


「急げ。」


俺はそう一言だけ言って、アルカナ王国へと向かった。




 時は少々遡り、アルカナ王国では、護国軍本部の大将の部屋にて、一人の老兵が鎮座していた。


「まさか、貴方が来ることになるとはな。いつもどおり、無視をするのかと思っていた。」


 老兵に護国軍の大将が話しかける。老兵は、何も言わずに座っていた。


「単騎で魔王を五体撃破した、伝説の兵士。」

「それは昔のことだ。今は、シャクネツ地方に隠居している。」


 大将は呆れたように、その部屋の窓の外を指す。指した先には、アルカナ王国の周りにある霧、それが円を描くように、一部分だけ無くなっていた。その中央には大きな亀裂がある。


「あれは何だ。」

「ふっ、やはり少し鈍ってたか。」


 大将は更に呆れていた。




 場所は変わり、アルカナ王国の敵対国、帝国ハルシオンでは。


「今こそあの愚国、アルカナ王国を潰すときだぁ。使えるものは全て使え〜!」


 太った帝王が国民に指示を出していた。


「こちらの戦力、約九十億!」

「よぉし、だがまだ気を抜くなぁ。相手は強いぞぉ。」


 その帝王は、決して身体能力は高くないが、稀代の頭脳派だった。




 更に場所は変わり、崖に建つ巨大な孤城では。


「予備の弾を忘れるな!」


 黄金色の騎士の兜を被った男が、指図を出していた。その男は光輝く鎧を着込んでいることから、『光の魔王』と呼ばれていた。


「如何なる状況でも、我を信じよ!」


 その男の指揮する鉄砲隊は、闘志に満ち溢れていた。




 そして、『冒険者ギルド』の本社では。


「狙うのは護国軍のみ。他に気を回すな。」


 一人の女を中心とした四人のパーティが作戦を立てていた。


「何をしようが、どうしようが、この争いには意味がある。」


 そのパーティの中心の女は、『勇者』と呼ばれていた。




 飛び跳ねながら階段を降りる。というか先程から凄く疲れる。やっぱり、あの【変幻自在】は肉体にかなり負担をかけるのだろうか。

 外はすでに暗い。開戦は早朝になるらしいので、急がなくては。


「とにかく急げ! アルカナ王国を助けるんだ!」

「ちょっと、生き急ぎ過ぎではありませんか。」


 重い声が響いた。横には、ローブを着込んだ一人の男が立っている。いつの間に?


「ゆっくり、一歩ずつ動くのが人生でしょう。」


 その男は俺の前に立ちふさがり、語りかける。


「急ぐのではなく、王道の道を進め。教祖様が私に教えてくださった。」

「誰だよ。俺は早く行きたいんだ。」

「レブル・ファミリアと言えばいいかな。」


 そのレブルは、ゆっくりと剣を抜く。


「貴方もあの方の教えを聞くといい。」


 斬りかかってきた。反射的にそれを剣で受け止める。いくら広いとはいえ、階段の上だぞ!? 一歩間違えたら落ちるのに……頭おかしいのか!?


「宗教の勧誘はお断りだ。」


 レブルは何度も斬りかかってくる。なんつー速さだ。そして多分、こいつは全力を出していない。ところどころ粗も見える。


「私は、正義とは何か、それをずっと考えていた。」


 流石にこたえてきたので、バックステップで避ける。


「その答えを教えてくださったのがあの方だ。」


 ん? よく見たらこのローブ、裏に護国軍の軍賞がある……。


「護国軍の『正義』は、私の正義とは相性が悪かった。」


 なるほど、護国軍の奴か。しかもかなりの手練。いや待て? 今、俺は護国軍の兵士に変装しているのに、何故?


「唯、国を護り、繁栄させるためだけの正義……。その為には死をも厭わない、自己中心的な正義。私は『正義』とは何か、分からなくなっていた。」


 レブルの剣捌きにキレが出てくる。まずい、このままだと……。


「そんな時、あの方は来てくださった。あの団体に入る事は、冒険者になるようなものだったが、後悔はしていない。」


 裏切ってまでか。相当追い詰められていたのかもしれない。すると、急にレブルの剣が止まった。

 レブルが俺に手を差し出す。


「さぁ、貴方も私と、ラファーガ様の教えを受け入れようではないか。案ずることは無い。すぐに本当の正義を見つけることができる。」


 ラファーガ、だと? 今、間違いなくそう言ったな。


「おい、いい加減、自分がどれくらい頭悪いのか気づけよ。」


 俺は、真っ直ぐに剣をレブルに向けてそう言った。

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