第38話 追想〜空を翔びたい少女

 ロミーの故郷であるマヨネー村。

 そこは小さな村であったが、人々が助け合って暮らす暖かい村だった。

 そんな村の中で、一人の幼女とその母親が歩きながら手をつないで話していた。


「わたしね、大きくなったら空を飛んで、お母さんを乗せるんだ!」


 手には鳥を象った玩具が握られている。その玩具は母親が彫って作ったものだった。


「そう、楽しみにしているね。」


 母親は子供らしい発想に微笑む。そんな、幸せな家族があった。




 数年後、その娘は少し大きくなっており、大分物事も理解できるようになっていた。


「お母さん! 果物採ってきたよ。」


 その少女は手に持つバスケット一杯に、果物を入れていた。


「お疲れ!」


 少女は他の村人達にも愛想がよく、皆から慕われていた。


「ありがとう、それじゃあ―――。」


 発砲音、この村には響いたことの無い、無縁の音が響いた。母親はいち早く気づき、ロミーを作物を保管する小屋に隠した。


「護国軍大佐、エアプレーである。此処にいるロミーと云う白髪の少女を引き渡してもらおう。」


 突然兵を引き連れて現れたエアプレーに、村人達は頭を下げた。優しい顔をしている歳をとった村長が現れる。


「すまんなぁ、儂は年で物事がよく理解できぬ、何故ロミーを引き渡さなければならないのか教えてもらおうか。」


 村長の問いかけにエアプレーは答える。


「はっ! 魔物にも巧妙な奴はおりまして、そいつ等は人間と見分けがつかない程迄に擬態するのです。」


 村人にざわめきが起きる。


「悪いが、この村にそのような少女はいない。他の村と間違えたのでは?」


 村長は解っていた。彼らの言っていることが本当だとすれば、間違いなくロミーはこの世には居られないと。

 だからこそ、嘘をついた。


「そうか……では、発砲用意!」


 兵士達は銃口を村人達に向ける。


「我々は国を護る兵士だ。国を護る為なら多少の犠牲は厭わない。」


 村人達の顔は恐怖に染まる。


「良いのか、それが無駄な犠牲だとしても。」


 村長の声をエアプレーは鼻で笑う。


「此処にいることは確実だ。素直に引渡せば良かったが、仕方がない。」


 村人達は覚悟した。その時、


「お母さん! 私はお母さんの子じゃないの!?」


 小屋からロミーが飛び出した。村人達は驚いてそっちを見つめる。


「ロミー!」


 母親は特に驚いていた、いや、恐れていた。


「バレてしまったか、あの娘は昔森で拾った娘じゃ。それを今まで育ててきた。」


 村長は観念したかのようにそう言った。飛び出してきたロミーを母親は抱きしめる。


「ごめんね……嘘ついてて。」


 エアプレーは笑った。


「自ら出て来たか。こちらも仕事が早く終わる。それでは……」


 エアプレーは手を振り上げる。


「撃て!」


 無数の銃口から銃弾が放たれる。その弾は、ロミー以外の村人を撃ち抜いた。


「この……大嘘つき……め。」


 村長が倒れ、それを追うように次々に村人が倒れていき、ロミーだけが残った。


「『現場責任者は村人達が対象に洗脳されていると考えた場合、発砲、及び村を無かったことにすること。』……か。火を放て!」


 エアプレーはそう指示した。兵士達は松明を持ってきて村に火をつける。

 ロミーは自らの前に倒れている母親をただ見ていた。

 怒り、悲しみ、孤独。ロミーを感情の大波が襲う。


 なんで……言ってくれなかったの。


 ロミーは心の中で呟く。木製の家はよく燃えていた。

 村人達までも燃やされていく。


 なんで……自分の口から。


 ロミーに手錠がかけられる。


「歩け。」


 兵士に背中を押された。それでもロミーは動かない。


「歩けって言ってるだろうが!」


 兵士に背中を蹴られ、ロミーは倒れる。森の中の村では、煙がもくもくと立ち上がっていた。


 なんで自分の口から言ってくれなかったの!


 ロミーを漆黒の波動が包む。

 背中を蹴った兵士はあまりの禍々しさに逃げ出してしまった。晴天を一瞬で暗い雲が覆う。

 その雲から幾多もの赤い雷が降り注いだ。

その雷は、まるで生きているかのように横に揺れ動き、リズムに合わせてこう唱えていた。


『獰猛な本性を、邪魔者には最期を、残忍に終わらせよ。』


 赤い雷がロミーを包む漆黒の波動に振り注いだ。するとその波動は卵のように割れる。

 これが後に『天使、ホープ』と呼ばれる魔王、ロミーの誕生だった。




 ロミーは兵士を全て消し去り、独学でスキルをいくつか手に入れた。

 その中に『洗脳』はあった。

 このスキルは本来、人を操る為のものではない。このスキルは誰にでも行使可能。

 当然、自分にも。ロミーはその時の記憶を書き換えた。




「酷い話だ。」


 俺はうなずく。

 護国軍といっても正義じゃないんだな。あくまでも国を護る為の防衛機関か。

 そう考えると、ろくでもないものに思えてきた。


「愚痴みたいだけど、聞いてくれてありがと。」


 ロミーは笑った。めっちゃかわいい。やばい。

 生き物って死にそうになると真価を放つって言うのは本当だったのか。


「あ、そうだ。悪いけど、頼み事があるの。」

「何だ?」


 そんなかわいさで言われたら断れないだろ! ずるい。


「アルカナ王国付近で戦争が起きる。それを手助けしてあげて。仇だけど、なんの罪もない人がいなくなるのは可哀そう。」


 戦……争?

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