第37話

 俺がここに来てしたこと……。まず、身体を鍛えてたんだ。そして腹ごしらえにスライムを食べた……。

 今となってはいい思い出だな。ハーミットなんて奴もいたなぁ。あれ何なんだろう? 魔物か?

 そして小さな村に行って、巨人と戦って……。角が生えた豚も狩ったな。

 あれを最初に見たときは少し面白かった。豚の癖に足が速いし。

 そして町に行って、なんか一騒動あって、そしてタキオンと出会った。あれからはいろんな魔物を倒したなぁ。

 そうだ、魔物だ。

 俺の生活にはいつも魔物がついていた。ならそいつらを全部、全部俺のものにしてやる!

 魔物の不思議な力に翻弄されるのは今日この日で終わりだ! 俺が魔物たちを翻弄して……勇者じゃなくてもいい! 真の魔王になってやる!


「なかなか強いなぁ。もっと楽しませて!」


 ロミーが満面の笑みで俺に話しかける。もう、動きは止めない、勘では動かない。

 溢れ出るインスピレーションを! 想像を! 身体で表す!

 タキオンとマイムの強力な攻撃を全て弾き返す。

 未来が読めるかのように、動きが分かる!俺が最初に倒した魔物はスライム! スライムのように全てを弾き返せ!

 俺は飛び上がった。その際、足が弾むような感触に襲われる。


「これが……俺の術だ!」


 弾む身体で辺りを跳ね周り、速度を上げる。これが、スライムの姿に変化せずに、原型を留めているのがより動きをトリッキーにさせていた。

 その高速で、タキオンとマイムを殴り飛ばした。


「凄い……。」


 その様子をロミーは唯、見つめていた。


「そうだな……これに名前をつけるとしたら【変幻自在】!」


 さぁ次は……! 頭に角の様なものが生えてくる。


「【変幻自在】角豚ホーンポークだ。」


 身体の原型を留めたまま、生えた強靭な角でロミーに突進していく。するりと躱された。

 まぁそんなもんか、ただの突進だし。すぐに向きを変える。


「お前、空飛べるんだよな? なら同じ方がいいか。ディープドラゴン!」


 角が消え、背中にドラゴンのような翼が現れる。

 翼で風を起こし、中に浮かんだ。こっからは一気に攻める! 翼を強く羽ばたかせ、ロミーの体制を崩した。翔ぶことには俺に利がある!

 高速でロミーに近づき、剣で斬りつけた。ロミーもすかさず俺に攻撃を仕掛ける。


「お前の動きはお見通しだ!」


 すぐに攻撃を受け止める。すると全身に鋭い痛みがはしる。

 俺の身体を、光の槍が貫いていた。


「今、一瞬で?」


 まるで、もともとそこにあったかのように。


「この槍はね、所有者が対象に攻撃した数だけワープするの。」


 なるほど……確かに一回当たってたな。

これも戦いの醍醐味か。だけど今の俺にそんな小細工が効くと思うなよ!

 素早く光の槍を抜いてロミーに投げる。ロミーは何かを感じて避けた。

 そのスキに丁度いい感じに間を詰めれるな。天井を踏み、スライムの弾む体に変化させる。部屋中を跳ね回る。

 もっと速く、強く! 拳を構えた。いや、いい、もっと強くできる。拳を降ろす。

 よし、体はロミーの方へ向いているな。トドメだ!

 スライムの体から角豚ホーンポークの体へと変わる。この一撃は拳より固く、強い!


「鬼神の角!」


 強化された角が、ロミーの身体を突き刺した。そして、その衝撃により、俺が脆くしていた天井が崩れ落ちるのだった。




「二人とも、元に戻るんだろうな。」


 俺は崩れた天井に挟まれるロミーに尋ねた。戦闘で受けた多くの傷はスライムでも治りきらず、残っていた。


「大丈夫。それより、エスト、君もだったんだね。」


 ん? 君? 俺が首を傾げると「なんでもないよ。」とロミーは誤魔化した。


「あんなに気持ちが昂ったのは久しぶりだよ。ありがとう。」


 礼をされるのはなんか複雑だけど感謝されてるしいっか。


「それにしても、お前みたいな奴が魔王で驚いたよ。」

「悪い?」


 俺の言葉にロミーは愛くるしい顔で微笑んだ。俺はゆっくりと首を振る。


「いいや、もっと悪そうな奴を想像してたからな。最初見たときはそりゃ、目を疑ったさ。」

「魔王は他にもいるからね。私みたいなのもいれば、エストが想像したような奴もいるよ。今、アルカナ王国と対立している魔王、あれとかかな。」


 へー、どんなんだろ、見てみたい。するとロミーは急に歌い出した。

 どんな歌かと聞かれると難しい、空を翔びたい気持ちと自由が詰まっている。そんな歌だった。

 不思議と歌詞が頭に入らず、でもちょっと懐かしい感じがして、鼓動が高鳴った。


「今の歌は?」

「故郷の歌だよ。」


 故郷、そうか、魔王だったとしても故郷はあるのか。


「私の故郷はね、もうないの。」


 故郷がない? どういうことだ?


「誰が悪いのか、もう今となってはわからないなぁ。でも、悲しかった。」


 ロミーは目に涙を滲ませる。


「自分が悪くて、でも悪くなくて。何がどうなのかもわからなかった。」


 矛盾しまくっているような、しまくっていないような。


「何があったんだ?」


 そう俺が尋ねると、ロミーは語りだした。

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