第36話
少女の笑い声が木霊する。二人に何をしたんだ?
確認しに行きたいけど身体が動かない……!
「ふしぎ。」
少女は俺の身体を確認しながら不思議そうにしていた。くそっ! どうなってるんだこの状況……!
「ふしぎだけど、ばいばい。」
少女の手に一本の光の槍が現れ、それを振り下ろす! しまっ――――。
『何をしている。私の目の前で腑抜けた態度をとっていいと何時言った?』
頭の中で声が響き渡る。聞いたことがあるぞ……この声! いや、それよりも。
俺は素早い身のこなしで槍を受け止めた。今までにない高揚感!
「なんでだろう、楽しくなってきた。」
少女はバックステップで後ろへ下がった。少女に夕日が差す。
「三対一か。」
そう少女が呟いたと同時にタキオンとマイムがこちらへ向かってきた。二人とも無事だっ―――。
腹に重い痛みがはしる。俺はいとも簡単に二人に吹っ飛ばされた。
壁に叩きつけられる。何故……!
「私のスキル、《洗脳》は使用者より精神力の低いものを洗脳する。人間の平均は10、私は101だよ。」
痛みを堪えながらゆっくりと立った。なるほど、流石に化物じみてるタキオンでも精神力は低いのか!
そして俺は……
エスト・モリス
レベル 600
攻撃 470
防御 398
移動 346
精神 140
スキル
《チャージ》
《粘着性》
《
《
精神力が39も勝ってる! このステータスに感謝する日が来るとは思わなかった!
確か俺の記憶だと本に、
『一般男性の攻撃値平均はレベル50時点で1000である。』
って書いてたから明らかに、力不足! だから、多分力では勝てない。
そう、力では。
「戦略でお前を倒す!」
この弱い力で、目にものを見せてやる! 俺は笑った。
「あは、そうこなくっちゃ。」
少女の身体が神々しく光る。
「《浄化》私はロミー。君は?」
「エスト・モリスだ。」
今は唯、戦いを楽しもう。剣を抜いた。素早く互いの武器が当たる。
ロミーは槍を離し、俺に一撃を叩き込んだ。
「《精神攻撃》」
ダメージは無いけど痛い! だが、痛みを感じるのも生きている証拠だ。
痛みに打ち勝て!
「《
「《威圧》!」
二人の気迫がぶつかり合う。その気迫は弱い衝撃波となり、足元を揺らした。
圧力をかける面では相手の方が上か。だが、そのスキを突く!
「鬼神の拳!」
俺の拳はロミーの腹に当たる。ここで、少しでも削る!
「うっ!」
ロミーは強烈な打撃に吹き飛ぶ。あたりには綺麗な純白の羽根が舞った。
「もっとやろう、高め合おう。」
これまでにないほどに―――――楽しい!すると、突如として身体に変化を感じる。
スキル《
・味方を率いる統率力。
・動かなければ全ての攻撃の命中率が半分以下になる。
・このスキルは詠唱不要。
何だこのスキル。でも、使えそうだ。
「そう、じゃあ、これを倒せる?」
タキオンとマイムが動き出した。参ったなぁ。倒せる倒せない以前に強いんだよなぁ。
しかも、操られているのではなくて洗脳だから戦い方も一緒。これはどうしたものか。尻尾巻いて逃げるわけにもいかないし。
いや、強いんじゃない、勝てないんじゃない。唯、今は楽しめ!
素早く動く二人の猛攻を剣で受け続ける。なんとか受けてはいるけど、なんつー火力だ!
剣に結界を纏った。いつこの状況が覆されてもおかしくはない。目の前にいたタキオンが急に消える。まずい! やられた! と、同時に背中を殴られた。不思議と、殴られた所が弾むような感覚になる。
直ぐにタキオンの方を向いた。緩んでいる! チャンスだ!
サーマルの言葉をふと思い出す。力が筒を通るかのように、重心を整え、打撃と同時に鋭く、速く、押し出す! タキオンに打撃を与える。タキオンがよろめいた。
これを発勁と云う……らしい。
「流石はタキオン、硬いなー。」
さぁどうしよう。このままやってもいいけど相手はタキオンだけではない。
でもこの状況をひっくり返す策が、一つだけある!
それは家の本で読んだこと……。
『魔力、それは全ての生命に与えられた力である。この力を引き出せるのは人間だけとされているが、人であったとしても、引き出せる者は少ない。
魔力は主に結界として使われる。その結界にはレベルがあり、結界はその結界以上のレベルの結界を行使しなければ本人以外、破ることはできない。
また、これはあくまでも一説であるが、己の身体に刻まれた術を結界を通して使える者も居ると云われている。』
人間しか使えない所はふしぎだけどそんなことはどうでもいい。俺が大事なのはこの、『己の身体に刻まれた術』だ。
実際それっぽいものを幾度か見てるしな。俺は魔物だけど、結界が使える。
だから、俺にも術が刻まれている可能性がある! それを今、ここで使えるようにしたい! いや、する!
それを使えば戦況が大幅に変わるはずだ。さぁ、後は想像力! 自分の心にあるイメージを結界で再現しろ!
「二人とも、少し辛抱しててくれ。」
「こんなに楽しいのは、はじめて!」
二人の声が重なった。
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