第35話

 城に近づき、入口に手を触れる。大きな木の扉だ。それをそっと押して開けた。キキキと古びた音を立てて扉が開く。

 そっと中を覗くと、中は教会のようになっていた。長椅子が幾つも並び、奥には鉄の扉が鎮座している。窓からは、差していないはずの日光が木漏れ日のように、この中を暗く照らしていた。


「あの中か。」


 タキオンがそう呟いた。ここに状況を理解できるようなものがあればいいんだけど……。

 辺りを探してみる。まぁ……ないか。あの扉を開けるしかないのか?

 ここで千里眼的なモノがあったら、サッと確認して終わりなんだけど、残念ながらそんなものはないので開けるしかないな。マイムが何かを持ってきた。


「これが鳥か?」


 マイムは手に鳥の玩具を握っていた。マイムは海中暮らしだったから見たことがないのかもしれない。

 それより何でこれが此処にあるんだ?




 その頃、アルカナ王国では号外の新聞が配られていた。


『大戦避けられず、四大勢力衝突か。』


 この記事を見た人々は皆恐れ、慌てた。


『アルカナ王国国王は敵国の王に条約改正を求めたものの、拒否され、国王に同伴していた業者が門番に射殺された。アルカナ王国国王は酷く憤慨しておられる。

なお、光の魔王、第一級犯罪者の勇者という二大勢力もこの機に乗じて参戦する見込みである。』


 帝国ハルシオン。

 遥か昔にアルカナ王国に不平等な条約を結ばせた帝国。その戦力はアルカナ王国と並び、技術力も高い。


 光の魔王。

 その実力は魔王の中でもトップクラス。最強とも呼ばれる鉄砲隊を指揮し、数々の国を滅ぼしてきた。


 勇者

 数少ない勇者の称号を持つ一人。冒険者ギルドに所属しており、少数精鋭のチームを持つ。

 個々の実力は護国軍中将を凌ぐ為、非常に警戒されている。


 それは大きな戦争が起こることを意味していた。




 鳥の玩具を観察してみる。見れば見るほど精巧に造られていた。

 そして何より、紙を咥えていた。その紙を広げる。


『とりさんみたいにおそらをとべますように。』


 子供っぽい字でそう書かれていた。何故、こんなものがあるんだ?

 子供でもいたのか?

 謎だぁ……。

 他に何もなさそうだからあの扉を開けるしかないか。


「開けるぞ。」


 俺とタキオンは鉄の扉に触れた。ヒヤリとした感触が手に伝わる。

 ズッと音を立ててゆっくり扉が開いた。その中はまさに魔王がいそうな光景であった。

 大広間、その先に威厳を放つ王座、王座の後ろにはステンドグラスが張り巡らされており、外から夕日が差している。大広間を見渡す。

 下に敷いてあるレッドカーペットは、まるで血に染まっているようで不気味だった。


「誰?」


 涼し気な小さい声が響き渡った。誰だ? 誰の声だ? 辺りを見渡しても、俺達三人以外は見当たらない。その時、上から何かがした。

 あれは……人? 否、天使だ。ここで様々な生物を見てきたが、天使のようなあからさまなものは初めてだった。白い羽をなびかせてゆっくりと少女が降りてきた。

 白い長髪は微動だにしていない。そのまま少女は王座の真上で静止した。


「なんの用?」


 容姿が恐ろしいわけでもない、むしろ美しい。しかし、その気迫が、オーラが、戦闘の意欲を揉み消した。

 これが……魔王!


「何をしに来たのかは分かってる。さっきの子達のバックアップでしょ。」


 バックアップ……じゃないけど向こうから見たら明らかに黒か。


「来れば来るほどが有利になるのに、勿体無い。」


 有利……? どういうことだ。

 刹那、手札の扉から大勢の護国軍の兵士が入り、俺達を取り囲む。


「これは!」

「だから言ったのに。」


 護国軍の兵士達が襲いかかる!俺は素早く剣を抜く。

 兵士の斬撃や狙撃を軽くいなした。多勢に無勢か! 兵士達は倒されても次々と湧いていく。


「恐らく、こいつらは操られてる! あの天使の行動に気をつけろ!」


 タキオンが攻撃を交わしながら言う。なんてこった。

 まさか五万全部操られていないよな!?


「少し乱暴だけど……《霊兵装備》!」


 辺りで戦っていた霊兵達がマイムに引き寄せられ、吸収されていく。全て吸収し終えると、マイムは強靭な鎧と剣を手にした。

何あれ、ずるい。

 マイムは次々と兵士を倒す! 負けてられない!


「やれ!」


 タキオンの手から出た黒い龍が兵士達を喰い散らかす。まじで何あれ。

 前々からちょくちょく見るけどあれ何。てか二人ともズル過ぎだろ。

 マイムに関してはチートスキル盛り沢山だし。


「ふむ……《洗脳》」


 少女がそう唱えると同時に身体に重い痛みを感じる。横目で左右を見る。兵士はもういないな。タキオンとマイムはじっとしていた。何をされたんだ!?

 いや、それよりも……身体が重い、身動きが取れない。タキオンとマイムがゆっくりと振り返る。その目は生気を失っていた。


「まさかここ迄とは。」


 少女が俺の方へ降りていく。


「あはは!」


 少女が笑った。

 本心で、快く。

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