第34話

「なんて奴らだ……。」


 護国軍の先輩が頭を抱える。それも無理はない。

 どうやら俺たちはあの森の魔物討伐、トリオで最高記録を出してしまったらしい。しかも今までの最高記録の約三倍とのこと。マイムのスキルはゲームで云う「放置ゲー」ができるし、タキオンは普通に強い。

 戦力としては充分でしかない。タキオンも流石にまずいと思っているらしい。

 そんな中でもマイムは寝ていた。それよりこの人に胃薬あげたい。可哀そう


「う……む、大将がお呼びだ。人柄が人柄だから気楽に行け。」


 え、大将? ついに戦いすぎて耳がおかしくなったのか?

 言われるがままに護国軍本部の建物の階段を登る。ガラガラで人っ子一人いない。骨董品は大量にあるけど。


「大将ってどれぐらい強いんだ?」


 俺が問うとタキオンが答えた。


「多分、お前が思ってるより強い。」




 暫く階段を登った先に、扉が見えた。


『大将』


 と、書かれている。恐らくあの中に大将が居るのだろう。登り切ったタキオンが、扉をそっと開ける。

 身体で緊張が分かった。


「誰だァ?」


 部屋の中を見る。するとそこには、60代程の男が逆立ちをしていた。

 えぇー、大将……えぇー。イメージとの余りのギャップに閉口する。


「ああ、こいつらか。その……何だっけ?」


 ああ……駄目だ……自分から呼び出しといて要件忘れるとか終わってる……この大将。

すると大将に一人の兵士が小走りで近づいてきた。


「何だ? 今は取り込み中と―――」

「申し上げます!」


 一人の兵士は大将の制止も聞かずに話し始めた。その目には明らかに焦りと動揺が浮かんでいた。


「『魔城』に先程送った兵、約五万名が全て……失踪しました!」

「!!」


 この部屋に一気にピリピリと緊張が張り詰める。五万? そんな数が……失踪?


「馬鹿を言え! 諜報員がいるだろう!」

「それもです。」


 大将は逆立ちを止めて椅子に座った。頭を抱え込む。


「『天使』ホープ! 想像以上だ……。」


 天使? そんなのも居るのか!? 一歩も動けないほどの緊張。恐らくこれが大将……! 暫くして、大将が口を開いた。


「今、我々大将は動けないことは知っておろう、ならばそこに居る三人を偵察に送り出せ!」


 三人?

 いち、に、さん、丁度! っておい! 殺す気か!


「ハッ!」


 兵士の一人は俺たちを部屋から追い出した。


「大将からの任務だ! 確実にこなせ!」


 そんな五万が失踪するほどの化物の住処に、三人で侵入できるわけないだろ!!


「おい!」


 タキオンが制止しようとしたが、もう既に遅く、俺たちはそこへ行くことになってしまった。

 しかし階段を降りる直前、


「すまない……本来私が行くべきなのだ……。」


 と、大将の部屋から聞こえた。責任を感じてるのか……。




 国を馬車が出て、白い霧に包まれる。今、その化物の住処へと向かっているのだ。


「おい、そのホープという者はどんな奴だ?」


 マイムがタキオンに尋ねる。


「ああ、あいつは魔王、天使のホープと言われていてな。何でも、街一つ焼き払ったらしい。」


 魔王!? そんな奴もいるのかこの世界。恐ろしや恐ろしや。


「一瞬でも油断したら死ぬと思え。」


 え、怖。淡々と話しているのが一番怖い。そんなに強いのか、魔王。

 俺は魔物だけど勇者になりたいかな。恐れられたくないし。




 酔った。

 マイム、何でいつも俺をこの体制にするような寝相する、そのせいで嫌でも酔うじゃないか。馬車の窓から外を覗く。

 すると外には、まさに幻想的な光景が広がっていた。色とりどりの花が咲く大地、透き通った池、そして雲でできた階段―――雲?


「うわぁ……」


 思わず声が漏れる。夢に出てくるような、誰もが夢見るような、そんな場所が目の前には広がっていた。馬車の動きが止まる。俺達は馬車から降ろされた。

 マイムを背負ったまま、辺りを歩く。すごいなぁ。

 雲の階段に脚を乗せてみた。若干弾力がある。どうやらこの階段を登った先に城があるらしい。

 でもとても魔王がいる場所とは思えないけど……。

 タキオンは足速に階段を登っていく。そうだ、早く行かないと。

 俺もマイムを叩き起こして階段を登った。




 流石に綺麗な階段でも、ここまで登ると息が上がる。どことなく酸素が薄くなっているようにも感じられた。

 後半分だ。




「……登りきっ……た。」


 かなり登った。先程の光景がもう見えないほどに。まず人間が作る階段の量ではない。

 軽く山を五つ登りきってもまだ足りない程の高さだ。それにどんどん薄くなる酸素。余計に疲れる。


「あそこか。」


 タキオンの視線の先を見る。するとそこには、テーマパークにあるような城が聳え立っていた。

 思わず息切れも気にならなくなる。ここにその五万の兵士を行方不明にした魔王がいるのか……。

 多分今までに無いほどの強さを持っているのだろう。しかし、あくまで今回は偵察だ。

 魔王に見つかる前に兵士が見つかるといいんだけど……。辺りは静寂と霧に包まれていた。

 そして、これまでにないほどに、張り詰めた気持ちと、落ち着き、そして寂しさを感じた。

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