第29話

 なんてこった。ふざけんなァァァ! ギリギリ知られてなかった俺の名前が轟いちゃっただろ!

 ニ階級上昇て。そもそも言い方が生き物に対するものじゃねぇだろ。てことは俺は準五でタキオン七級。こりゃ酷い。ほら、冷たい視線を感じる。逃げよっ。俺は直ぐにその場を去った。




 タキオンみーっけ。マイムと果物の仕入れしてるな。理由はなんとなく分かるけど。


「タキオンー!」


 タキオンがこっちを向いた。走り寄って記事を見せる。


「まぁ……つまりこういうこと。」


 タキオンは記事を興味深そうに見る。


「へー、王宮に魔人関係者かぁ。」

 そっち!?俺ちゃんと指名手配の記事見せてんのに何がどーなったらそうなんだよ!?


「ふーん。あ、そうだ、もう護国軍が首取りに来るだろうから。気をつけろよ。」


 え?


「退け退け! 護国軍の大佐様だぞ!」


 あらあら、もう行列が見える。しかもこの先行き止まりだ。詰んだー。

 って突っ立ってる場合じゃねぇ! しかも見た事ある奴が馬に乗ってる。んー?

 誰だっけ。


「護国軍大佐、テイゾウである。丁度良い。ここで3人を捕縛するぞ!」


 あー! そうそう、テイゾウだよ。

 生きてたのかあいつ。なんかちょっと残念。

 すると兵士達がこちらへ向かってくる。だがそんな兵士など、タキオンにとっては烏合の衆であった。

 あっと言う間に蹴散らしてしまう。


「大佐が何用よ。」


 テイゾウは馬から降りる。


「実力を、確かめに。」


 うわぁぁぁお。敵の癖にかっこいいじゃん。

 じゃあタキオンに任せて武器でも買ってくるか。


「お前もだ。」


 タキオンに掴まれる。むむむむむむむ。

マイムめ……。そそくさと逃げおって!


「ハーッ。」


 テイゾウが息を吐く音が聞こえる。その瞬間、テイゾウはタキオンに打撃を入れようとしたが、結界で防がれた。なんて速さだ。

テイゾウの影から、回転しながら何かが飛び出してくる。

 素早く剣を抜いて攻撃を受ける。


「不思議な魔物。」

「ふぇ、フェローチェ!?」


 フェローチェは何も変わっていなかったが唯一、武器がカトラスに変わっていた。まずいな。

 フェローチェも結界を使うんだったか。テイゾウほどの化物じゃないから良かったけど、ここは……!


「「逃げるぞ!」」


 タキオンも同じ考えだったようだ。フェローチェのカトラスを弾き飛ばし、走る。


「くそっ! 《悪魔眼デーモンアイ》!」


 追いつかれそうになったが、なんとか速度を落とさせた。そして国を出る。そこには既にタキオンとマイムが馬車にいた。すぐに乗り込むと馬車は走り出す。

 兵士数人が追いかけてきたが、すぐにまけた。ふー、危ない危ない。




 暫くして、タキオンから布を渡された。


「もうすぐ馬宿兼ギルドに着くが、そこはアルカナ王国にかなり近い。念の為これを着けろ。今までの国とは警備が違う。」


 えー! いや、そんなとこ行くなよ。ていうか近いのにギルドやってるって、どういう神経しているんだ。とりあえず口を覆うように布を巻く。

 マイムは寝ていたが、無理矢理着けた。寝相が悪くないのが救いかな。そうこうしている間に馬宿に着き、馬車を降りる。タキオンに続いて、俺はマイムを背負って中に入った。うわぁ〜。

 旅人だけでなく、護国軍のスーツを着た人が何人もいる。タキオンは受付へ回った。


「交代の時間だ。」

「じゃあ早く着替えてこい。」


 この二人は何を話しているんだ? そう思っていると店の奥へ通された。タキオンがロッカーを開ける。

 するとそこには……ギルドがあった。色々な冒険者が酒を飲んだり賭け勝負をしたりしている。


「もう取っていいぞ。」


 布を外した。クエスト受注所と書かれた場所へ行く。タキオンはクエストを見ていた。結構色々あるなー。

 ランクも指定されてるのか。タキオンが何かを決めたように、受付へ向かう。同じ頃、別の男も受付へ向かっていた。


「「二十八番のミッションにする。」」


 声が重なる。二人の目と目が合った。


「これはこの俺が先に言ったんだ、譲れ青二才。」

「拒否する。」


 ヤクザのような風貌の男の喧嘩腰の申し入れをきっぱりとタキオンは断った。仲間らしい奴も口を出してきた


「おいおい、そんな口聞いていいのかよ。」

「そうだ、このお方は両鎌のリスットラ様だ。」

「今最も有名な犯罪者で級持ちへの昇格が騒がれてるお方だぞ!」


 何その二つ名。というかそれぐらいってことは結構強いんだろうなー。


「そうさ、俺こそがリスットラ。準5級以上―――つまりは上位級の奴らには敵わんが、6級程の実力はあると思ってる。」


 タキオンより強いのかこいつは?その割には弱そうだけど。


「雑魚、どけ、邪魔。」


 タキオンまさかの単語で返答! リスットラは震えていた。タキオンは再び受付へ向かう。


「おい待てよ! この俺にこんなことをして許されると思ったのか! 決闘を申し込む!」

「いいぞ。」


 周りがざわついた。ふあ〜。タキオン疲れないのかよ。


「こいつが。」


 タキオンの指が俺を指した。ふーん、そーかー。って俺ぇぇぇぇ!?

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