第28話

 タキオンと老人は打ち合いを続けていた。此処でやらなければ終わらない。

 やるしか……ない! 俺は足で強く地面を踏みしめる。たとえ、死んだとしても!

 拳に結界を纏わせた。後戻りは、できない。


「俺は、お前を超える! そして、更に強くなってやる!」


 老人がこちらを向く。目こそ見えないものの、口は笑っていた。


「こい! 小僧! お前の全力を見せてみろ!」


 相手も覚悟は充分のようだし、そろそろやってやるか。


「《巨神の加護アルゴスエンチャント》」


 これで俺の攻撃力は結界を乗せた分の1.1倍になった。そして更に、を乗せる! 俺は一進一退の打ち合いを続ける老人のもとへ走る。そして拳を振り挙げた。


「《チャージ》発動!」


 拳は紅く光る。その火力、計算が正しければ、およそ五万! 名付けて、【鬼神の拳】!

 その圧倒的な火力の塊は、正確に老人の腹を捉えた。


「ガハッ!」


 老人は吹き飛ぶこともなく、倒れた。老人を見下ろす。口から血を吐いている。腹からもだ。


「小僧よ……。人を殺めたことはあるか……?」


 死に際の一言か。こんなんで何も感じないだなんて。俺も魔物っぽくなったんだな。


「ないな。殺されたことならあるけど。」


 老人は口元を笑ってみせた。


「儂もだ。まさかあの駅で何者かにとは、驚いたものだ。まぁ、金はなかったし、今の方が楽しいのだがな。」


 え、嘘だろ。


「おい! それって……俺もだ。」

「おお、お前もか。確かにあれは沢山殺されていたからな。」


 じゃあ、この爺さんは人間なだけで、言ってしまえば、俺と同じ境遇……?


「突き落とした者の顔は覚えていないなぁ。そうだ、これをやろう。」


 老人は俺の手に何かを渡してきた。これは……魂の果実?


「ここで見つけたものだ。お前なら上手く使えるであろう。」


 黒光りするそれをかじる。血がついているが、いい味だ。体が光りだす。


「最期にいいものを見れた……な。」


 老人は動かなくなった。やがて光は収まり、新しいスキルを手に入れた。



悪魔眼デーモンアイ

・暗視

・相手に若干の恐怖を与える



 弱いのはいつも通りか。何処かが痛む。もう、それすら、分からないのか。



 森を抜け、ギルドで報酬を貰った。


「いやー、にしても本当にクリアするなんて。只者ではないですね貴方たちは。」


 一人100万ディム。半端ねぇなこりゃ。


「これを機にランクアップ試験でも受けたらどうです?」


 ランクアップ試験?いやもう疲れたからそういうのは……ってタキオンやる気満々ー!




 とゆーわけで。

 この試験をやれば簡単に難易度の高いクエストをできるとのことで、俺も受けるハメになった。マイムはさっさと終わらせて、外で山盛りのすり果実を食べている。

 そして俺がいる立方体の空間の中には、明らかにやばそうなのが居る。でかい芋虫だな。さっさと終わらせるか。


「あ、そうだ試しに《悪魔眼デーモンアイ》」


 芋虫に大きな変化は無かった。しかし、全身が若干震えてるようにも見える。

 安定の弱さ!剣を抜いて結界を纏った。すると芋虫は巨体をくねらせて床に潜る。


「あれ?」


 潜ったところを見ても穴がない。どういう事だこれは。

ズズズズズ

 なんだこの音。まさか、下!? そう気付いた時は既に遅く。俺は上に突き飛ばされていた。


「くそっ……しくじった!」


 直ぐに体勢を立て直す。こんなんでくたばると思うなよ。こっちはタキオンとかいう化け物に、飛ばされまくってるんだよ!

 剣を下に向ける、すると直ぐに芋虫は潜ってしまった。当らなかった剣が床に突き刺さる。

 キモい癖にやりやがる。水を掴むようだ。

剣を抜いた。いや、待てよ、これは……

 簡単じゃないか。思わず笑みが溢れる


「今に見てろ。」


 剣を再び突き刺した。


ズズズズズ


 来る! そして突き飛ばされた。

 しかし俺の真下に現れた芋虫は、頭に俺の剣を突き刺してしまったようである。芋虫は激しい音を立てて倒れる。降り立ち、剣を抜いた。


「千切り芋虫にしてやるよ。」


 結界を纏った剣は、凄まじい切れ味で芋虫を切り刻んでいった。血も出ずに芋虫は死んでいる。芋虫の一部をポーチにしまう。

 昆虫は意外と美味しいらしいので今度食べてみよう。いや、そういう趣味がある訳ではない。あくまで非常食だ。




 合格を告げられ、俺はレジェンド1とかいうランクになったらしい。タキオンはプラチナ3である。飛び級らしい。

 因みに俺も飛び級レベルらしく、結界を使えるレジェンドクラスはいないらしいが、あまり上がりすぎると護国軍に勘付かれるとのことである。

 ギルドを出ると、新聞が配られていた。号外とのことである。貰ってみると、表紙にはでかでかとこう書かれていた。


『アルカナ王国宮殿に魔人関係者と思われる者が居る可能性があるとの発表。詳細掴めず。』


 魔人ってあれだよな。昔にいた激強のやつ。あんなんと関わりがあるやつがいるのか。


『ムリムリ専門家 10年前に起こった魔人テロが蘇るようだ。動き出すのは近いかもしれない。』


 恐ろしいこった。号外が配られるのも無理ないわな。すると新聞から一枚の紙が落ちてきた。それを拾って見る。


『【要注意】エスト、タキオン・ペネトレイト、マイム・アクアのパーティが準五級犯罪者討伐か。エスト、タキオンは異例のニ階級上昇と思われる。』

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