第26話

さて、問題のクエストの内容である。

それは、黒い犬の姿をしたヘルハウンドとかいう第2等級魔物の巣を壊滅させることだ。

無茶だ……。

低級で手こずっていた俺が倒せるはずがない。

ヘルハウンドは時空を移動する能力があるようで、不意打ちや逃走にも気をつけなければいけないらしい。

なお、以前に戦ったアルゴスよりも強いようだ。

もう無茶苦茶じゃねぇか!

そう嘆こうにも既に巣のある『夜森』に入ってしまっている。

この森は外からのあらゆる光を遮断するので、松明でも使わないと前が見えない。

故にいつ何処から襲われても可笑しくないのである。

因みに俺は眠ったマイムを背負わされていた。

身長がほぼ同じなので動きづらい。

全く、この状況でよく眠るなぁ。

こいつを引きずり込んだタキオンは何を考えているんだか。


ワォォォォォォン


遠吠えもするし。

もう近いかなー。

なんて思っていると目の前に大樹がそびえ立っていた。

穴が空いており、生き物が中にいそうな雰囲気である。


「遅かったか。」


え、タキオン君?

何が遅かったのかね? 流石にまだ見つかってないよな?

すると穴の中が人魂のように青く光りだした。


「これだから鋭い若者は……。」


穴の中に黒いローブとシルクハットを被った老人が現れた。

白髪と髭で素顔が分からない。

隣には2匹の黒い犬が宙に浮いている。

その不思議な圧力に俺は恐怖を覚える。

気を抜くと気絶しそうだ……!


「初心者向けの威圧を仕掛けてくるとは。噂だけのようだな、老いぼれは。」


老人はしわがれた声で笑う。

恐怖が過ぎ去った。


「随分とした言われ者だな。どうせ儂を殺しに来たのだろう。返り討ちにしてくれよう。」


そう言うと老人は消えた。

すると黒い犬が群れをなして向かってくる!

もしかしてもしなくてもあれがヘルハウンドか!?

俺は剣を構えた―――――が!

ヘルハウンドの群れは、蜃気楼のように消えてしまった。

マイムを降ろして辺りを見渡す。

何処も異常はないと思った刹那、背中に鋭い痛みが走った。

振り返る。

そこには爪を立てた大量のヘルハウンドがいた。


「時空を移動するってそういうことか! これは厄介だな。」


当然タキオンは攻撃を避けていた。

まぁマイムに当たらなかっただけ良かったかもしれない。


「まったく、何処の世界にも平等はないな。強い者が必ず生き残る。」


老人が上に現れる。

浮いていた。


「じゃあなんで弱い俺が生きているんだよ。」

「今から消すからだ。」


老人の目が赤く光った。

老人が降り立つと、その足元に淡く光る魔法陣が現れた。

そして老人はごにょごにょと何かを言う。

よくわかんないな。

この世界に来て言語に関しては困らなかったものの、今老人が言っている言葉が分からない。


「まさか……古代の魔法か!?」


タキオンがあり得ないとでも言うように驚いている。

只事ではない。


「エスト! 発動する前に仕留めるぞ!」

「お、おう!」


何が起こるのかは分からないが、やばいのは分かった。

剣を抜いて立ち向かう。


ガキンッ


しかし突然現れるヘルハウンドに、刃を噛まれて邪魔された。

一体何匹居るんだよ。

仕留めようがないなこれじゃあ。

タキオンも苦戦している。

そしてマイムは――――――起きてる。

起きてるぅぅぅぅ!


「おいマイム! あの黒い爺さんに攻撃しろ!」


マイムは寝ぼけていた。

この状況! 数が必ず必要なのにあいつぁ……!


「うーん。れ、《霊兵召喚》。」


100の鎧が現れる。

そしてマイムは寝た。

霊兵たちは老人に真っ直ぐ向かっていく。

次々と現れるヘルハウンドを受け止め、前に進んでいく。

急に飛び出しているのに、見えていたかのように霊兵たちは受け止めていた。

次々に動けなくなる中、残りの1体が老人のすぐ近くに来ていた。

そして剣を振り上げる!


ザシュッ


霊兵は老人を斬った。

すると老人の目が虹色に光る。

魔法陣が俺達の足元まで広がった。


「魔算、デスペラード。」


老人がそう唱えると、俺の足元までに広がる魔法陣が燃えた。

と同時に全身にこの上ない苦痛が走る。

地面が割れた。

周りのヘルハウンドはもう息がない。

周りの木が倒れ、辺りが平地になっている。

膝をつき、苦痛に耐える。


「ふむ、してやられたな。」


俺の首飾りは赤く光っていた。


「魔法妨害の石とは。それを考えていなかった。」


老人は俺に近づいてくる。

周りにはタキオンも倒れていた。


「痛いであろう。は、所有者に向けられた魔法の威力を抹消する代償に、その3倍の苦痛を与えるものだ。」


じゃあ俺は助かったのか……?

否、今助かったところで殺されるか。

老人はナイフを取り出し、俺に振り下ろした。


「なっ……。」


老人の驚きの声が聞こえる。

俺は恐る恐るそちらを見るとそこにはがあった。

結界だ……!


「少しは薀蓄のある奴が来るとは。」


よし……。

取りあえず、死にはしない!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る