第25話

 体が揺さぶられ、目を覚ます。

 目の前にはマイムがいた。


「やっと起きたか。丁度飽きていた頃だ。」


 馬車が動いている。

 どうやら馬宿を出たらしい。

 その……なんだ。まさにマイムが遊んでくれと言わんばかりの眼をしている。


「悪いが聖書しかないぞ。暇なら寝とけ。」

「こんな揺れる所で誰が寝よう!」


 と、最初は意地を張っていたマイムであったが、5分も立たないうちに俺に寄りかかって寝ていた。全く、これだから子供ガキのお守りは……。

 因みにマイムは6歳であるとのことだが、俺と身長が同じという点が納得できない。マイムは6歳の平均的な身長である。

 だが俺はどうだ!二十代後半の公務員だぞ!(元だけど)

 人間でいったらタキオンと同じぐらいの身長の筈だ。

 それがこんなちっさくなるなんて。力はついてきた気がするが、まだまだ《チャージ》は使いこなせない。

 結界もあれ以降出ないし、俺はこの中で最弱の可能性がある。いやいやいや! それは避けたい。

 強くなるためには、「新たなスキルを得る。」これが得策なのであろう。

 だがそのためには魔物を倒したりしなければならない。そして魔物を倒すためには、自らの体を鍛えなければならない。

 と、このように繫がってしまうのである。仕方ないので取りあえず聖書を読むことにした。

 ここでは当然トレーニングなんかできないし、聖書になにかヒントがあるかもしれない。二十ページ程ある前書きを飛ばし、読み始めた。




 昔、この世に7の神がいた。夢の神、宝の神、大地の神、正義の神、生命の神、死の神、そして愛の神。

 その神はそれぞれを統治していたが、幾度もの天災が起こる。その天災は大地の神ですらどうしようもなかった。神々は、天災が起こった回数……7を凶の数字とした。

 そして神を一つ、堕とさせる事にしたのである。堕ちた神は―――――愛の神であった。

 神がひとつ堕とされてから、天災は起こらず人々は1つの巨大な国を築いた。それがアルカナ王国である。




 はー。設定が凄く厨二だけど神話ってこんなもんなのか?とゆーか酔ってきた。

 これは酷い。死ぬる! 本を閉じ、外を眺める。

 だが当然そんなことでこの酔いが覚めるはずもなく、地獄のような長い時間を味わった。




 馬車が止まる。どうやら着いたようだ。真っ先に降りて柔らかい芝生に倒れ込む。酔い段々と覚めていく。

 元から三半規管は弱いほうだったが、これ程までに弱体化されるとは。とゆーか辺り花一面だな。

 ある程度治って来たところで爆睡しているマイムを引きずり出した。


「着いたぞ! 起きろー!」


 起きない。揺さぶってみる。やはり起きない。するとタキオンが何やら物騒な物を持ってこちらに近づいてきた。

――――――ハリセンである。


「いや、タキオン君? 流石にそれは幼子に―――」


 タキオンがマイムの腹を素早く叩いた。おいー!! 何やってんだよー!

 しかし! マイムは寝息のひとつすら変わらなかった。その後も何度も叩く。

 だが、起きる気配はなく、何なら傷一つ付いていなかった。化物降臨じゃん。


「成程、そういうことか。」


 と、タキオンは言ったあと、俺の後ろでりんごっぽい果実を取り出してすりおろし始めた。甘い果実の匂いが広がる。

 すると鋭い痛みが後頭部に走る。


「グホッ!」


 その衝撃で地面顔をぶつけるというまさにカオス。


「早く食べさせろ。」


 顔を上げるとさっきまでここに寝ていたマイムがタキオンの前に座っていた。


「痛みの元凶はお前かー!!」

「はて? なんのことだ?」


 ああ、これは面倒な者を押し付けられた。いや、タキオンが自らに押し付けたんだけど、それは俺にもリスクが伴うのである。

 すり果実を食べてるマイムをよそに俺は門の方を向いた。門というよりも入口だな。

 結構オープンな感じで入りやすそうである。マイムは食べ終わったようで、タキオンと供に国の中へ入っていった。

 俺も急いで追いかける。土壁の城壁で覆われた国は、まるで村かと思うほど小さかった。あちこちに露店がある。

 そんな中、二人はとある店の中の階段を降りていった。

『喫茶店 勇気と冒険ブレイブ・アドベンチャー

 何だこれ、すっごくあからさまだな。明らかに冒険者が立ち寄るとこじゃん。と、思いつつも階段を降りる。




 中はやはり街の様であった。いつもこんな技術があるのかと感心させられる。

 クエスト受注所と書いてあるところへ行くと、既にタキオンとマイムがいた。マイムの登録は済んだのか?


「頼む、これをやられてくれ。」

「いやでもねぇ、プラチナ2会員必須だから……。」

「そこをなんとかしろ!」

「お嬢ちゃんまで……。」


 タキオンが交渉していた。マイムも。するとタキオンが俺の姿を確認するなり、襟首を掴んで受付に見せた。


「こいつの顔、知ってるか?」

「ん、誰だい?」


 タキオンは自身満々に鼻をならす。ん? 俺って結構知られてない?


「知るはずもねぇか。こいつはコアな犯罪者でなぁ。手配書には載らず、犯罪名簿には載ってるんだ。」


 タキオンは青い板を取り出し、俺の写真と級の載る名簿を見せた。受付の顔が青ざめる。


「驚いただろ? こんなガキだ。しかも罪状非公開、手配書に載ってないときてる。これを持ってる奴は少ないからなぁ。護国軍の方が何かを隠したいんじゃないのか?」


 受付は水を飲んで冷静さを取り戻し、タキオンから3つのカードを受け取った。そもそも俺にランクってあるのか?


「ふむ……プラチナ1か……。」


 あれ、意外と凄い?てゆーかタキオンが持ってたのか。会員カード。

 おのれ……。


「エスト・モリス、プラチナ1、タキオン・ペネトレイト、ゴールド1、マイム・アクア、ブロンズ3……。まぁ死ぬことはないでしょう。許可します。」


 こうして何か聞いてないクエストを受けるのだった。

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