第24話

 マイムは最低限の装備しか揃えてなかったが、タキオンは満足そうであった。

 もしかしたら元々仲間に引き込むつもりだったのかもしれない。そう思いつつも、国王の手配により人目の少ない裏通りから国を出ることになった。道は狭かったものの、数人しか出くわさなかったので楽に抜けることができた。

 隠し門と呼ばれるところから国を出る。


「改めて見ると、でかい国だなぁ。」


 思わず呟いてしまうほど大きな国だった。

こんなところで戦ってたのか。こんな国よりでかいのが陸にあるんだから、たまったもんじゃない。

 近くには正門があった。ん? 物見櫓ものみやぐらの上に人影があるぞ?

……。


「国王じゃねぇか!!」


 そう、櫓の上には国王がマイクっぽいものを持ち、笑顔で手を振っているのだ。そして国王は俺達に背を向け、破壊された街を眺めるであろう民衆に語りかけた。


「今、私の娘であるマイムが旅に出る。こんな時ではあるが、祝ってやってくれ。」


 民の姿こそ見えなかったが、表情が分かるほどの凄まじい怒号が幾つも飛び出した。


「早く出てけー!! この犯罪者!!」

「この街に来てたらしい冒険者もそうだ! 元はお前らが悪いらしいじゃないか!!」

「正義の神と生命の神の名のもとに、王は裁きを!」

「息子を返して!」

「悪魔の娘め!」


 ……半端じゃねぇな。マイムは俯いている。そりゃそうだ。こんなに嫌われて、自殺を選ばないだけでも立派だな。

 しかしなお、王は笑っており、やがて俺たちの方を向いた。


「やっと民に認められたな。お前の希望が。」


 マイムは顔を上げる。怒号を上げていた民衆も静かになった。


「民に認めてもらうのもお前の夢だろう? ニつも叶ったじゃないか。」


 マイムの顔に笑みが戻る。その目には涙が滲んでいた。

 俺の親父はどうだっただろうか。……記憶がない。

 俺はこれから先、どんどん前世の大切なものを忘れてしまうかもしれない。それでも前は向きたい。

 ここでポジティブに生きるって決めたんだから。マイムが口を開く。


「行ってきます!」

「もう来るなー!」


 マイムの声と民衆の声が重なった。それは双方、奇妙にも嬉しそうであった。


「気をつけろよ。」


 王の優しい声が聞こえる。こうして好敵手ライバルと新しい仲間ができ、今日も一歩前へ進むのだった。




 海から出る。短いけど長い1日だったなぁ。マイムは陸に出るのは初めてのようで、辺りをきょろきょろと見渡している。

 それから側の馬宿である程度マシな装備を揃え、マイムは何も持っていなかったのでポーチと服を買った。これは王国からの費用である。41

 とんでもない出費であったが、殆どはタキオンの金なので俺の財布にはダメージがあまりないのだ。その間にしれっとマイムの指名手配ポスターが貼られていた。


マイム・アクア

懸賞金2000ディム

海底王宮の破壊を一助した罪

生け捕り必須


 生け捕りかぁ。まぁ一国の王女だったし当然か。それにちょっと羨ましい。

 俺は殺されても文句言えない立場だしなぁ。




 次は近くの小国であるエシックスに行くと言う事で今日はこの馬宿に泊まることになった。……全然寝れない。

 仕方ないのでうとうとしている行商人を叩き起こし、聖書を買った。買う気は無かったが、暇なのだ。

 さきいかを噛りながらページをめくる。前書きが長い。

 聖書に前書きを置くなよ。神に祈りとか捧げなくていいって。そうしているうちに眠くなっていった。




 目が覚める。外を見たがまだ暗い。しかしタキオンは既に起きていた。


「馬車は用意してある。あの国は冒険者の制限が緩いから隠す必要もない。」


 隣ではマイムがすやすやと寝息を立てている。俺も荷物をまとめたが……やっぱり夜は長い。

 馬車に荷物を詰め込み、聖書を開いてさきいかを口に入れたが―――そのまま寝てしまった。




 それから2日後、最大の王国であるアルカナ王国の王の間には、主従関係にある二人の王、アルカナ王国国王と海底王宮サブマージョンの王がいた。


「アバランシュ、もうやめてくれ。俺はお前に跪かれるようなものではない。」


 アルカナ王国の王の前には海底王宮の王であるアバランシュが跪いていた。


「何を仰いますか。先のエストとペネトレイトを逃し、娘を冒険者に引きずり込ませたのは紛れもない私でございます。」


 アルカナ王国の王は若く、そして慈悲深い眼差しでアバランシュを見下ろす。


「兎に角、他の王なら死罪に値するが、お前は無罪だ。貴様がいなければ俺は少なくとも百は死んでおる。」

「ですが……」


 そう言おうとするアバランシュの方をアルカナ王国の王は優しく掴んだ。


「今日は疲れているだろう。うちの道化師の芸を見てゆっくり休んでくれ。」


 元の冷たい目に戻りアルカナ王国の王は王間を出る。その傍らには肩に掛かるぐらいの青い長髪を持つ、まだ成人していないぐらいの背格好の者がいた。その者は笑顔を見せた後、軽くステップを踏んで曲芸を始めた。

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