第17話

 は動かなくなっている。もう安心かと思ったが、ここは紛れもない護国軍の基地である。タキオンを引っ張り出して帰ろうかな。でもあそこの書物の内容は知らないとまた来るハメになるし……結局俺は《粘着性》でよじ登り、読むことにした。


『我、ここに記す。黄昏の歯車、海底王宮の勇者であるエルラ像の胸元にあり。エルラの活躍を讃え、エルラ像は最深部の神衛之神殿にあり。神衛之神殿に近づきし者、究極の試練を与えん。』


 なんだこりゃぁ。意味が分からない。でもとりあえず覚えておくか。

 入り口が見えたので、タキオンを引きずってここを出ることにした。護国軍が出迎えることを覚悟はしていたものの、迷路を抜け、重々しい扉を開いた先はガラガラだった。


「おーい! 誰がいませんかー?!」


 返事もないし……避難したのか? でもこれでゆとりを持って逃げれるな。と出口へ向かおうとすると、医務室と書いてある扉が見えた。ちょうどいいや。

 タキオンを引きずって階段を登り、医務室に入る。案の定、誰もいなかった。タキオンを適当にベットに寝かせ、回復薬を探す。


「これか?」


 箱の中には瓶に入った薬がある。俺はその中でも緑がかっているものを取り出した。

『超復旧薬 レジスト・ヒール』

 瓶に張り付いている紙にそう書いてあった。説明もあるな。えーと?


『本品は怪我や状態異常などを多く消滅させ、なるべく健全な状態に戻す薬である。

貴重であるので中佐以上の階級の者に使用するように。

   護国軍特別価格 5000ディム』


 凄いな。こんなものまであるのか。ということでタキオンに飲ませてみた。

 すると火傷のような深い傷もみるみる治っていくではないか! ……欲しい!

 しかし瓶に入っているからな……。そうだ! 俺は焼いてないスライムを10個ほど出した。それに薬を垂らしていく。焼いても水分が抜けないスライムだからこそ、こんな便利なこともできるのだ。

 スライムに薬がみるみる吸収されていく。こんなふうにして10個を作り終えた。

 結果として回復薬のスライム4個、正常化薬のスライム4個、そして超復旧薬のスライム2個といった感じだ。この10個を除き、回復薬を垂らし、実験用となったスライムを俺が食べたのだが、傷の治り方は変わらず、味もかなり改善されていた。

 スライムは保存も効くのでこれを売ったらかなり良い値がつくかもしれない。

 まだ目が覚めないタキオンを引きずり、出口まで歩いていく。暗い階段を登った先は―――――俺は眩しい光に包まれた。


「来たぞ! エストとタキオンだ!」


 嘘だろ!? 待ち伏せしてたのか! くそぉ……! どうすれば……!


「大佐がいないぞ! 捕えろ!」


 大佐? ああ、テイゾウか。そういやそのままだったな。なんて呑気に言ってる場合じゃなくて! どーすんだよこれ! 俺らには今にも護国軍の兵士が踊りかかろうとしている。


「かかれ!」


 護国軍の兵士が飛びかかった。もうだめだ――――。


「怪我人ぐらい静かに寝させろぉ!!」


 するとタキオンが飛び起きて護国軍の兵士数人をふっとばした。助かったのか?


「エスト、お前よくもまあ俺をズルズルと引きずってくれたなぁ。」


 ……怖。顔は怖くないけど怖い。


「で、でもほら、今は護国軍がいるし……な?」


 まあそうだとタキオンは向き直った。そして何人もの護国軍の兵士を吹き飛ばしていく。村の人は恐ろしさに固まっていた。

 多勢に無勢ともいうが、護国軍は相手が悪すぎた。なぜなら冒険者のチーム一つを余裕で壊滅させるあのタキオンなのだから。

 驚く兵士たちを無視して拳で道を作る。ヤクザそのものだが、何か違う。タキオンは一体何故ここまで強くなれたのだろう。

 そのまま馬まで道を作り、馬に乗ってここを出た。兵士たちはやっと正気に戻ったようで、やっと追いかけてきた。当然そんなものは遅く、あっという間にカラッポ村を後にした。

 しばらくして、タキオンが馬を止めた。


「よし、護国軍も居ないしここらで借りを返しとくか。」


 タキオンは馬を降り、焚き火を始めた。そして物干し竿のような物を手際よく作り、下に焚き火があるように移動させた。肉でも焼くのか?

 するとガシッとタキオンに掴まれた。そしてそのまま物干し竿に吊るされる。


「よくも引きずってくれたなぁ。」


 あー。忘れてなかったんだ。思わず泣きそうになる。で、かりを返すのが火炙りって訳ね。


「悪かったから、悪かったって!」


 なんと言っても辞める気がなさそうである。豚じゃねぇんだから辞めろよ、直ぐに。

というかそんなに熱くないな、なんだこの炎は。あれか? 不完全燃焼とかいうやつか?




 結局1時間そのままで、最終的にはこっそりためていた《チャージ》を発動して脱出した。

 あまり使いたくなかったが、この際はしょうがない。


「まぁまぁ落ち着いて、書物の内容覚えてるから。」


 本当か!? と、とっくみあっていたタキオンが大人しくなった。なんとも扱いやすい人間だろうか。

 そして内容を話すと、タキオンはすぐに思い立ったかのように立ち上がった。


「よし! ウミアメ地方までワープしてそこからサブマージョンへ行くぞ!」


 鬼じゃん。休憩もさせずに行くのかよ。しかし咎めようにも咎められず、結局行くハメになった。

 ディムはあるし観光気分で行くしかないか……。

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