第18話

 ワープして馬に乗る。これはもう慣れてきたのだが、休憩しないというのが納得いかない。



 ウミアメ地方は岩場に包まれているからガタガタしてるし……何より雨が降っている。

 こんなところで普通は寝れっこないのである。例え寝ようとしても、追いかけてくる魔物を狩りまくれと言われてしまっているので気が抜けない。

 色とりどりのタコばっかだから矢一本でなんとかなるが、道行くタコ全部が追いかけてくるのである。たまったもんじゃない。

 そもそもタコってこんな速く陸で動けたっけ?



 そんな些細な疑問を持ちつつも矢を放つ。磯の匂いがした。

 タコの臭いではない。前を向くと途方もないほどの広い海がすぐそこまで迫っていた。


「綺麗だなぁ。」


 思わず呟く。下手したらハワイの海より綺麗かもしれない。


「おい、後ろはどした。」


 あ、忘れてた。後ろを向くとたくさんのタコではなく、巨大なイカがすぐそこまで迫っていた。


「ぎゃぁぁぁ!!」


 矢を撃ちまくる。

 当然馬の動きが速すぎて狙いが定まらない。こうなったらしょうがないな。

 俺は馬の上から飛び跳ねた。体が空中に浮く。

 世界がゆっくりと動いているように見えた。俺はイカの目玉に素早く矢を放つ。

 世界が元通りに動き出し、俺は地面に着地した。イカは余りの突然の出来事に驚き、苦しんでいる。俺は悶えているイカの足を切り刻む。

 いい食料にもなりそうだ。イカの足を一本抱えた。大きすぎて俺ではこれが限界だったのだ。

 だがタキオンを見失ってしまった。完全に迷子だ。

 あたりを見渡すが、これというものはない。いや、あるな。

 一軒家一つ分くらいの大きさのテントがある。海のすぐそばだ。俺はそっちの方へ走り出した。




 なんとかたどり着いた。そこにはタキオンがいて、遅かったなとかなんとか言ってたけど、置いていくなんて酷いな。

 更に3000ディムでよくわからない髪留めを買う羽目になった。青いスーツとタイツもだ。ついでにイカの足を干してさきいかを作った。酒の肴にはもってこいだが、俺は子供だと思われてるので飲めない。悔しい。

 タキオンに着替えろと言われたので渋々着替える。買ったばかりのスーツとタイツを着込み、頭に髪留めを付けた。爺さんに貰った首飾りは着けたままである。

 するとタキオンは崖の上に立っていた。下は海だ。と思った次の瞬間。

 華麗な身のこなしでタキオンは海に飛び降りた。見惚れてしまうほどである。というかタキオンが上がってこない。服もそのままだったし。崖の上まで行き、下を見下ろす。

 噂をすればタキオンが顔を上げた。


「どうした! 早く来い!」


 え? 海に? そのための服だったのかこれは。いや、でも俺カナヅチだし。厳しいなぁ。


トッ。


 俺は崖の上から突き落とされた。一体誰がやったんだ!? 掴める場所もなく、そのまま落ちていった。全身が冷たい感触に覆われた。

 海に落ちたのだろう。まずい! 息が、息が!! できる。


「はぁ!?」


 なんと海の中でも息ができるではないか!この服とかのお陰だろうか?

 ポーチは完全防水だったので濡れていない。視界も良好。タキオンも見える。

 ん? どんどん深くに行ってないか? タキオン。

 まず、タキオンが息つぎなしで潜れていることも十分不思議だが、この世界ではスキルです、で通用する。

 俺は当然素潜りもできないハズだが、もしやと思い腕で海水を掻いてみた。するとグイーッとかなり速く進むことができた。

 文明の利器は凄い。というより、目的地は確か海底王宮……? だったっけ? うん? もしかして……。

 今は海深くに潜っている。そんな訳はない。だが……。底が見えてきた。岩がある。いや、だ。思わず目を見張った。


「嘘だろ……!」


 手を掻きまくって進んだ先には――――青々とした金属で形をなす王宮と城下町らしきものが見えた。こんな海の中に!? 夢か!?

 しかし夢だとしても余りにリアルである。夢じゃない……。

 タキオンが顔を隠し、地面に降り立ったのを見届けてから俺も顔を隠してスイーっと泳いで金属の地面に降り立った。


「……凄いな!」


 産業都市のように発達している。こんな所があったとは。あ、店がある。

 店を覗いてみた。色とりどりの特徴的な魚が売られている。

 そもそもここに住んでいる人は水中でも生活可能なスキルを身に着けているのだろうか。色々な店を回って良さげな店を見つけた。

      『弓の極み』

 そう書いてあった。中が見えなかったので興味本位で入ってみると、矢が売っていた。矢は先程のタコによる消費が激しく、もう数本しか残ってない。一本10ディムと結構安いので20本ほど買うことにした。

 会計を済ませたあと、ある特殊な矢が目に入った。


「『鮫の矢』……?」


 矢じりが灰色でドリルのように渦を巻いている。


「おや、観光客かい。」


 会計のおばちゃんが反応した。ここで引き下がらないのが商人魂だと大学時代の友人に教わったことがある。


「この矢は水中でも真っ直ぐ飛ぶのさ。あんたも漁とかするなら買っておいたほうがいいよ。」


 値段は五本で1000ディムとお高めだ。だが、魔物に襲われたときのことを考えて買うことにした。

 店を出るとタキオンが道行く人に何かを訪ねていた。何を聞いているのだろう。

 するとタキオンが俺の存在に気づいたようで手招きをしてみせた。俺が近づくと


「更に深くに行くぞ。」


 と言って泳いで町を出てしまった。

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