第11話

「まさかこんなところでサーマルに会えるとは!」


 タキオンはサーマルの手を握った。それほどの人なのだろうか。


「なんの用だメラ。」


 いかつい!

 近所にいる嫌われ者のお爺ちゃんみたいな感じだ!


「あんたに爆炎神器を譲って欲しいんだ!」


 爆炎神器?なんだそりぁ。厨ニ病か? サーマルはすぐに首を振った。


「却下…だメラ。」

「なんでだよぉぉぉぉ!」


 タキオンが崩れ落ちた。まさかこんなに速く却下されるとは思ってなかったらしい。


「ナーガとの戦いをスキルで監視してたメラ。時間かかりすぎだメラ。」


 タキオンはすぐに弁明しようとした。


「でもあれはこいつが邪魔だったから…。」


 ふーん……。

 なっ! 失礼なやつだな。だけど、サーマルは俺の味方のようだった。


「だとしても…メラ。」


 サーマルは俺の方に顔を向けた。なにか顔についてんのかな。


「俺はこっちが気になるメラ。第7級犯罪者になった魔物…。それなのに気配の薄さ…こいつは俺が叩き直すメラ!」


 そこはタキオンを叩き直してくれないかと思ったが、タキオンでは十分らしい。

 なので俺はサーマルに叩き直され、タキオンは近くの町の観光、ということになった。悔しい。




「剣とは扱い方によって変わるメラ。斬るものに対して真っすぐ斬る、これをするだけでかなり鋭くなるメラ。」


 と言ってもこの剣が重くて難しい。

 そこはご愛嬌らしく、慣れていけばいいとのことだ。無茶苦茶だな。 


「コレを斬って見ろメラ。」


 と言って鉄の鎧を出してきた。いや無理だろ、俺のこんなちっちゃい剣で。

 と思ったが威圧が凄いので、斬るしかないのだ。

 この剣…重くなったな。打ち直してもらったけどこんなに違うものなのか? まあ後は察する通りで、斬れずに振動が手に伝わったと。


「お前は筋力が足りないメラ。せめてお前の剣を軽々持ち上げれるぐらいにはなれメラ。」


 と言ってサーマルは鎧を手刀で真っ二つにしてしまった。

 この世界はこんなんが普通なのか?そして俺は倒立とか、岩を押すとか色々やらされて、まぁまぁパワーアップはした気がするけど、周りがバケモノ過ぎて、自信が湧かない今この頃であった。




 約1分という地獄のように短い休憩を挟み、弓の訓練が始まった。

 これが意外と難しく、姿勢を保ったまま射ようとすると手がブレて的から外れてしまうのだ。

 俺がもらった弓は対象を狙いやすいように作られているのだが、これでは意味がない。


「これを使え。」


 と、革製のガントレットを貰って安定はした。やっぱり難しいけど。




 なんとかごまかし、盾の訓練が始まった。

 盾は意外と簡単にできると思っていたのだが、奥が深かった。使い方によって相手の体制を崩したり、スキを作れるというのだ。

 ちなみにこの手をサーマルは現役時代に使いこなし、【騎士王】とまで呼ばれたらしい。

 弓より難しいというよりもコツが掴めなかった。タイミングが命、というわけである。




 そうこうしているとサーマルが口を開いた。


「実践でコツを掴んだほうが良い。」


 実践? これをやんのか!? 魔物に!?

 止めようとしたが時すでに遅し、檻の中から一周り……いや、二周りくらい大きなゴブリンを出してきた。

 この姿の俺にとってはボスである。そんなボスキャラはトゲトゲしたバットを持っていた。

 針じゃない、木製だ。だけどより痛そうである。


「グルァァァァ!」


 襲いかかってくる。サーマルは死んでもいいとでも言うようにこっちを見てるし……くそう!

 ゴブリンは止まらない。スキルのチャージは貯めてないし、粘着性は戦闘向きじゃないし……そうだ! あれがある!

巨神の加護アルゴスエンチャント》だ!!

 微量と書いてあるがしょうがない。


「やってやるよ!《巨神の加護アルゴスエンチャント》!」


 全身にほんの少しだけ力がみなぎる。

 ゴブリンがトゲトゲバットを振り下ろした。

 俺はそれを左手に装備していた盾で防ぎ、右手で剣を抜いた。そして腹に剣を入れようとしたとき―――俺は岩に叩きつけられていた。

 何が起こったんだ?

 ゴブリンの姿勢を見て悟る。蹴り飛ばされた!

 強すぎだろ!何食ったらそうなるんだよ!口元から血が垂れた。

 立ち上がって再び立ち向かう。ゴブリンはバットを振り上げた。

 リーチが長い! また岩に叩き付けられる。

くそっ! 体がもう…!

 ゴブリンが一歩、また一歩と近づいてくる。

『ドクン、ドクン』

 緊張が走る。

 ゴブリンがバットを振り上げ、俺の頭をち割ろうとしたその時――――不意に心臓の音が聞こえなくなった。

 そうか、俺は人間じゃないんだ。

 痛みで動かなかった体が軽くなった。

 間一髪でゴブリンの攻撃を躱し、背後へ回る。ゴブリンはスキが無かった。すぐに振り返り、バットを振りかざす。

 俺は盾を構えた。バットと盾がぶつかる直前、俺は盾を前に突き出した。


「グルァ!?」


 ゴブリンの体制が崩れる。それと同時に、バットを弾き飛ばした。

 武器を飛ばされ、逆上したらしいゴブリンはすぐに殴りかかった。もう、作戦は立てない。

に動く。

 俺は人間じゃない、魔物なんだ。その拳を受け止めるように盾を構える。

 盾と拳がぶつかるその時、俺はバク宙で拳を躱した。

盾に当たるハズだった拳は、宙を彷徨う。スキができた。驚いてるな。まだ体が中に浮いているとき、世界がゆっくりに見えた。

――――今だ。

 弓を引き絞る。体制が整ってないため難しい。だが、失敗する気がしなかった。矢を放った。それはゴブリンの黄色い目に命中し、再びゴブリンは体制を崩した。

 剣を取り出す。

 不思議なことに重さは感じない。もうそんなことはどうでも良かった。俺はゴブリンの腹を、剣で深く斬った。

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