第12話

「弱いメラ。」


 ゴブリンを倒し、それを見ていたサーマルが開口一番に放った言葉は、俺の精神に大ダメージを入れた。

 いや、このボロボロの体にそれはないだろ! せめてもうちょっと気遣うとかさ!ね!

 強いからではなく、気遣いとかがないから『鬼のサーマル』の異名がついたのかもしれない。


「準八等級に苦戦しすぎメラ。でも、後半は良かったメラ。あの手なら準五等級と張れると思うメラ。」


 くっ…! 俺ってそんな弱かったのか! 精神に大きなダメージが入るのがわかる。


「俺が教えることは正直もうないメラ。後は訓練あるのみメラ。」


 ちょっとだけ嬉しい気がする……??? それよりも全身が痛い。鞭で打ち付けられてるみたいだ。

 するとサーマルが真っ青な液体が瓶に入った物を俺に渡した。


「飲めメラ。」


 いや無理無理無理無理!飲んだら死ぬよ!これは! ブクブクいってるし!

 いや……でもこれを飲んだら傷が治るとか? 元気になるとか? 良薬は口に苦しというけれど、これが良薬だったとしてもこの際、良薬は命を奪うだろ!

 と、戸惑っているとサーマルは瓶の栓を開け、俺の口に無理矢理押し込んだ。


「びゃぼぼぼぼぼ!」


 苦すぎる!

 俺はカプセル剤の中身をそのまま口に入れた事があるのだが、それのほうがまだ甘い!

 ああ、もうだめだ……。と気を失いかけたところで薬を飲み終わった。

 やはり傷は治っている。そして薬は、口の中にまだ残っている。

 俺は焼きスライムを食べようとしたが、それだと勿体ないと止められ、しばらく地獄を味わう破目になった。



 タキオンが帰ってきた。ゲッソリしていた俺とは違い、タキオンは元気ピンピンである。

 ちなみにタキオンについていったあの子供ガキから聞いたのだが、タキオンは町ゆく人に振り返られるほど注目を集めていたのだとか。

 行った町は冒険者の捕獲にルーズな町だったそうなので、犯罪者という理由ではなさそうだ。

 イケメンは憎い。

『ドォォォォォン!』

 突然爆発の音が聞こえた。


「はっはっは!今日こそは部下にしてやる!鬼のサーマル!」


 爆発したと思われるところには一人の男が立っていた。

 その男は金ピカの服を纏っており、顔がアニメとかに出てくる悪役みたいだった。


「馬小屋のドルダか、しつこい奴メラ。」


 ドルダと呼ばれた男は顔を真っ赤にして、サーマルを指した。

 面白いな、こいつ。


「やい!俺様をその名で呼ぶな!俺様は懸賞金額100万の混沌のドルダ様だ!」


 懸賞金? そんなんもあるのか。にしてもよわそ〜だな。


「ややっ! お前はタキオン! 手ぇ出すなよ! 俺の獲物だ!」


 態度でかいなー。するとサーマルが口を開いた。


「何度もいうが、お前の仲間になどなる気はない! どうしても仲間にしたいならこいつに勝て。」


 と、俺の背中を押して前に行かせた。酷ぉぉぉぉ! 自分で戦えよ!


「なんだぁ、そんなガキが相手かぁ?」


 ドルダは短剣を取り出し、飛びかかってきた。正直あのクソでかゴブリンと比べればかなり野蛮に感じる。

 俺は盾で軽々と受け止め、弾き返した。


「ぐはぁ!」


 なんなんだこいつは、モブキャラか?


「くぅそぉぉぉぉ!俺様を怒らせやがったな…。」


 短剣が黒く染まりだした。

 じわじわと太陽の光を反射する白銀の刃は、何物も照らさない黒い刃へと変わる。


「スキル《混沌の黒鉄》だ!」


 なんかすごそうだな。一応斬られないように気をつけなければ。


「喰らえ!」


 再び飛びかかってきた。学習しないのだろうかコイツは。

 サッと避けると短剣が地面に弾かれ、『パン!』という音と共に紙吹雪が舞った。

なんだこれは。


「運がいいな。俺はパチンコに5年という歳月を掛け、賭けをマスターしたのさ。その結果がこのスキル。何が起こるか運次第!今は弱気だが、俺にはスキル《上方修正》がある!」


 パチンコかぁ〜。やったことないけど大体、当たることは少ないらしいな。

 スキル《上方修正》か…。確率を上げる系のスキルか?

 いや、ステータスのほうか…?


「喰らえ!」


 短剣を振り回しながら近づいてくる。紙吹雪が舞ったり、鳩が飛び出たり、矢が放たれたりとてんやわんやだ。

 そして短剣が俺に近づく、縦を構え、防いだ…と思った時、爆発で盾は壊れ、吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされんの何回目だよ…。幸い、岩に激突するなんてことはなかったが、地面に転がされて、擦り傷とか何とか色々ある。


「ガーッハッハッハ!」


 触れた瞬間に発動さえしなければいいのだが…。


「この近くの町は俺の仲間が占拠している。お前らに勝ち目はない!平伏せ!」


 するとタキオンが町の方へ走っていった。咄嗟にドルダはタキオンの方を向く。


「あ、貴様! どこへ行く! 野郎ども! 頼んだぞ!」


よそ見だ―――。剣を抜く。音を立てずに素早く近づき、剣を振り下ろした。

 簡単に真っ二つになった。なにかおかしい。

 すると、ドルダが笑った。


「スキル《分裂増殖》。」


 ドルダの二つに割れた体はすぐに再生し――二人に増えた。プラナリア人間だぁぁぁ!


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 俺の悲鳴が木霊した。

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