第6話

 さらにしばらくして今度はお姉さんではなく、偉そうな(太った)おっさんが出てきた。


「失礼します。もう一度やらせていただけないでしょうか。」


 いや、別にいいんだけどね。目立ってる! みんなこっち見てるし!

 しぶしぶ黒い板に再度触れた。一瞬青く光った板をしばらくおっさんが見つめたあと、こう告げた。


「あなたは人間ではありませんね?」

「そっか〜人間じゃないか〜やっぱりな〜って、えぇぇぇ!!」


 おっさんは汚らわしいような目を俺に向けた。周りの人も同様だ。


「こちらを見てください。」


 おっさんは板を二つ取出し、俺に触れたくないとでも言うようにぶっきらぼうに置いた。そしてその片方を擦った。


「人間である場合は通常、板を擦ると赤く光ります。ですが人外の場合、黄色に光り震えます。そして検査した結果。第ニ等級魔物ハイモンスターである、無形精神生命体フロンティアであることが確認されました。よって、あなた、いや、貴様は駆逐対象となる!」


 えええええええええええええええええええ!

 頭の整理が追いつかない。はいもんすたぁ?ふろんてぃあ? わけがわからん。

 するとドアがバン!と開いた。そこには白い服に白い警察官の帽子を身につけた人たちがいた。


「守衛隊だ!民間人は避難してください!無形精神生命体フロンティア!! そこを動くな!」


 悲鳴とともに他の人が役場から出ていく。


「隊長!半径150メートル以内の民間人の避難、完了しました!」


 隊長と思わしき人物にその一人が報告した。


「よーし!狙撃用意!」


 俺に一斉に銃口が向けられる。ああ、もうだめなのか。俺は人間なのに間違われて。

 また生き帰れたらいいな。俺は目を瞑った。


「狙撃!!」


 火薬の爆ぜる音が聞こえる。もう少し生きたかったな。

……。


「……何故だ。」


 守衛隊隊長であるグロクォはの恐怖を思い出す。まずい…!!

 煙に隠れて見えないが間違いなくだ。



 20年前、そよ風の丘ベントゥスはどの国よりも技術が発達していた。

 そう、20年前だ。

 20年前のあの忌まわしい日……誰もが忘れようとしていた日……!

 あの日、誰もが普通の日常を送っていたあの日! 突然起こった悪夢! 後に死の救世主と呼ばれた者!

 その者――――サバドア・モリス。

 ベントゥスを焼け野原にし、五万の民を殺した闇夜で光る赤い目の化け物!

 その姿、事件はただの天災として歴史から抹消されているが俺は覚えている! あの目を…あの仮面を!

 死する者を嘲笑うような柄を持つあの仮面を!




「なんの罪もない命を消して何になる。それは神への冒涜と同じ。」


 怒りが湧く。虫唾が走る。お前が魔物を庇って何になる。


「お前がそれを言ってどうする。言っていることとやっている事が違う……とでも言うか?それにそいつには民間人を怯えさせた罪がある。これでもなにか言うか?」


 目の赤い光が強くなる。ああ、落ち着け。


「否。罪とは命を消すこと。そのようなことは罪とは言わない。私は善なることをしているだけだ。」


 ああ、もう充分やった。もういいさ。敵討ち……五万の命の…か。


「何を言っても解らぬようだな。ならばここで消そう!サバドア!!」


グロクォは片手を天井にかざす。


「【狂乱怒涛フレンジー】!」


 目の前にルーン文字が現れる。これは使いたくなかったが…使うしかない。


「全隊員、自らの命を最優先! 避難区域を広げ半径300メートルに変更!」


 隊員にどよめきが起こる。


「早く! これは命令だ!」


 隊員が一斉に避難を始めた。もう大丈夫か…。


「どうした?サバドア!怯えて手も足もでんか!」

「……。」

「では終いにしよう。」


 ルーン文字に触れる。それと同時に青い光に包まれた。



 ここは…? 何もない…土だけ?

 そうだ!俺は確か撃たれたはず…? 身体を見てみるが、傷が1つも無い。

 とにかくなんかやばい気がする。逃げよう。

 俺は走り、目に入った井戸に飛び込んだ。



「おお! 遅かったな! 国民登録できたか?」


 それどころではない。もう色々やばいのだ。

 だんだん事の重大さが分かってきた。


「みんな!やばいからすぐに逃げろ!」



 アルカナ王国の宮殿の一室に八人の老人が集っていた。


 ひとりの老人が腕を組む。腰には老いた身体には相応しくない、輝くニ丁の拳銃が携えられていた。


「ベントゥスで起きた一件。あれはどうしようもない。ミスだ。」

「ただあの無形精神生命体フロンティアを奴が守った理由が分からん。」

「兎にも角にもあの無形精神生命体フロンティアを指名手配だ。」


 飢えた人間のような恐ろしい顔をした老人が手をテーブルに打ち付けてそう伝えた。


「名前がないぞ。」


 重々しくひとりの老人が伝える。老人とは思わせない程の肉体美である。


「そうか…ならばエスト・モリスとしよう。検体は取れているのだろう?」


 老人達は頷いた。


「全員、意義はない。」


 老人は小槌で机を叩く。


「ではここに無形精神生命体フロンティア、エスト・モリスを全会一致で第七級犯罪者とする!!」


 そう、俺の知らない所では起こっていた。後にこれが俺の人生に大きな波紋を与えることを知らずに……。

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