第3話

 祭り。それは通常、日本では屋台などを出してやるものだが、ここでは違う。

 のめや歌えやの大騒ぎ。もうこれは宴じゃないかとも思ったが俺はもう完全に子供と思われているらしく、相手にされず酒ももらえない。

 ここでの酒を味見したかったがこの姿ではどうしようもない。交渉しても酒が回っていて聞いてくれない。

 仕方がないので外で焼きスライムをちびちびと食べていると一人の子供ガキがよってきた。


「なんだよ。」

「おい、お前。俺と戦え。」


 その手には棍棒が握られていた。


「はぁ?」

「だから戦えと言っているんだ。」


 子供ガキのほくそ笑んでいた表情が不服の表情に変わる。ここの儀式ではないっぽいな。チャンバラごっこ的感覚なんだろう。


「そんな子供ガキっぽい遊びに付き合うより、月を見てスライム食べたほうが有効的だ。」


 棍棒を握る手に力が入る。


「戦え!!」


 本気か。変に親に言いつけられても困る。


「威勢はいいな、いいだろう。戦おうか。」


 他の子供ガキまで寄ってきた。


「クロックスー頑張れー!」

「お前なんかメタメタにされちゃうんだぞー!」


 観客ギャラリーが多いが仕方がない。相撲の土俵より広い円の中へ案内され、その線の位置に立った。

 そのクロックスと言われた子供ガキの目の色が変わった。コバルトブルーからシグナルレッドへと。


「行くぞ!」

「ああ。」


 走り出し、互いの力がぶつかろうとした瞬間。激しい音と共に、家が一軒潰れた。

いや、潰された。

 潰された家の先には青い巨人がいた。


「逃げろー!」

「大人を呼べー!」


 この大騒ぎ。余程ヤバいのだろうか。いや、子供ガキだからか? 家から出てきた子供ガキが更に騒ぐ。


「だめだ! みんな眠ってる!」


 まじかよ! そもそもこんな森の中、油断しすぎじゃないか!? 子供ガキは戦えないし…詰みか?

 いや、この中で一番大人なのは残念ながら俺だ。やるしかない。俺は前に出た。


「落ち着け、俺がる。」

「まて! お前でも―――」

「落ち着け子供クロックス。死なないから。」


 と、言ったものの、残念ながらまだスキル《チャージ》は使いこなせていない。ストックは2回。これで仕留めるしかない。

 俺の算段はこうだ。

 まず一回目を足に使い、巨人に高速で近づく。そしてそのまま2回目で巨人を叩く。巨人がどれだけタフかは分からない。つまり賭けだ。だが、


「教えてやるよ。子供ガキたち。あれを倒す方法さ。とにかく鍛えまくる。そして賭ける。自分の強さに。もう一度言うぞ! 賭けなきゃ自分の強さは証明できない! 見た目で判断するな。全ては本質だ。」


 クロックスから棍棒を奪い取り1回目を使う。高速で近づき、俺は全力で棍棒を振り下ろした。




 頭から液体が垂れていくのが分かる。血だ。俺の攻撃は躱され、頭を掴まれている。かなりの握力だ。


「ハッ。デカブツ。聞いてなかったのか? 勝負は、賭けだ。」


 ニヤリと笑った俺に巨人は後退る。


「やれー!」

「追い払えー!!」


 村人だ。槍を持ち、こっちに向かってくる。投げた槍が巨人の腕に深々と刺さった。そのまま巨人は悲鳴のような声を上げて森の中に去っていった。


「大丈夫か?」


 村人が数人駆け寄ってきた。


「これぐらいどうってことない。」

「おいおいおい。一応治療はしておく。」


 と、村の家の中のペラペラの俵に敷かれ、俺は治療を受けるハメになった。

 余談だが、俺の顔は結構モテるらしく一部の女性陣には人気らしい。だが現在の俺にそれを知る術はないのだ。



 約1週間後、俺はすっかり元気になり角豚ホーンポークを狩りまくっている。

 希少レアではあるらしいが、焼きスライムを置くと簡単によってくるのだ。やっぱり焼きスライムは万民が好きな(?)食べ物だな。

 だが長居するわけにもいかない。町があるらしいのでそこにも行ってみたい。と、いうことで今日ここを出ることになった。


「短い間だったけどありがとな!」


 出る前に挨拶をすると沢山人が寄ってき

た。


「気をつけろよ!」

「またいつでも来てねー!」

「ああ! 落ち着いたらまた来る!」


 俺は町への道筋を示した地図を持って村を旅立った。


「1週間もいて、いろんな人の役に立ったら情も湧くよな。」


 俺はこんなことで泣かない、絶対に。



 村から町までの道のりは長かった。歩くだけではあったが、それもまた大変というものだ。

 夜、寝る場所を探していると光っている場所があり、近づいたら人がいるではないか!


「おーい!」

「えっ、夢じゃ…ないよな。ここで人なんて、まさか、悪夢の使者ナイトメア!?」


 何言ってんだこいつ。俺は駆け寄っていく。


「違う違う。お前はこんなとこで何してるんだ?」


 男はため息をついた後、


「何だ子供か…」


 といったことに俺はムッとしたが、まぁいい。こんなことで俺は怒らない。俺は寛大なのだよ。


「冒険者ギルドの仕事ミッションさ。角豚ホーンポークの角2本。なかなか角豚ホーンポークが見つからなくてね。見つかっても逃げられてしまう。かれこれ1週間、この森の中で野宿してるのさ。」


 俺は心当たりがあり、ポーチの中を探してみると角豚ホーンポークの角が4本あった。それを二本取り出し、差し出す。


「これ、やるよ。」


 男はすぐに飛びついた。


「いいのか!? こんな貴重な物を!」

「ああ、」


 男はなんと抱きついてきた。苦しい。


「ありがとう! ありがとう!!」


 俺は男をなんとか抑え、あることを閃いた。なんていい方法なんだ。


「やるんだけど、町に行きたいんだ。何かいい方法を知ってるか?」


 男は喜びながら、


「もちろんだ。この石に魔力を込めると町にワープするんだ。」


 と、石を差し出しながら言った。ん? 今なんか突っかかる言葉があった気がするが、


「捕まってろよ。行くぞ! 3、2、1!」


 すぐに男に捕まる。体が青く光ったと思った次の瞬間。俺は、町にいた。

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