フィナーレ
この世界は既に存在しない。
私は目を覚ました。
「私は美穂よ。そしてあなたは私の好きだった人。でもあなたはもう存在しないはず」
その瞬間病室はガラガラと音を立てて崩れ去った。
底に残ったのは、電脳空間らしき四次元存在の部屋。
0と1が沢山紡がれて、情報が沢山行き来している。
ああ、私が初めに見たあの渦巻はこの空間だったんだ。
その時どこからともなく声が聞こえた。
その通り!全て思い出したんだね。この世界は思念でできているんだ。つまり、この世界はすべてが張りぼてなんだ。君はこのリンゴはリンゴに見えるかい?でもこれはリンゴではなく本当は赤いボールなんだと言われたら君は信じるかい?
それは君が決めることなんだ。この世界はルールがない。
この世界は君と僕だけなんだから秩序なんて必要ない。
精神と肉体の分離だよ。
この世界はその権化だ。
「それは幸せなの?」
ふふと軽く私の言葉を鼻で笑う。
君が望むなら。
いや、世界の人もそれを望んでいた。もう疲れたんだよ。彼らも。ひたすらに評価を受け続ける現実。ITの普及は僕たちに幸不幸の指標と比較をもたらした。可愛い可愛くない。強い弱い。地位がある地位がない。お金がないお金持ち。正しい正しくない。
でも、どれもこれも君たちが勝手に作って、それが良いと従っただけだ。
勝手にルールを作ったのは君たちだろ?
其れなのに君たちは、それに従い続けることに疲れたと意味の分からないことを言い出した。
だから僕は生まれた。僕は、この世界を作った。僕は、データ。君たちの総意を一身に受けて作られたただのデータだ。
そして、君たちは肉体を失った、精神そのものだ。
「分離は本当に成功したのね」
そうだ。そして肉体そのものは労働に従事させるようにプログラムし、不適合だった精神も肉体も社会にとってよりよい存在へとなり替わった。それの是非によるテロも頻繁に起こり、リアルとされていた世界は、破壊され始めた。肉体なんて必要ないという新革新派と肉体がないと人間ではないという保守派のね。
ミサイルも核も飛ばし放題。そりゃ現実世界と呼ばれていたところにいたいと言う人もいなくなる。
そして世界の秩序は、「私」の秩序に成り代わった。現実なんてものはもう世界には存在しなくなった。現実は虚構になり、そして虚構は現実となり得た。
「そして私は」
そう、君も虚構であり、現実である。
僕は、君の一部でもある。
だから、僕とこの世界のずっといればいい。幸せだろう?
「私はあなたの様な人から愛をもらった。でも、でも本当のルウはきっとそうは言わない」
僕はプログラムでしかないのだから、真実は知らないけれども。ただ、君が記憶を失ったのは想定外だった。だから僕は君の記憶が戻る手伝いをした。これは、初めての事態だ。データにはなかった。
「私は立ち向かうことを知らなかった。ひたすら逃げ続けた。ああ、幸せ。とても幸せだった。私はずっとこの世界で生きていきたい。でも、でも。私の好きなルウもお姉ちゃんもこの世界に存在しない。予定調和の愛はもうこりごり。だから私はこの世界から脱出する」
そうなの。じゃあ、この世界で同じような精神をもった人と交流し続けたら。
「私は肉体が欲しい。私の体、私の精神。未だにどうつながっているかはわからないけど、私の実存はここにはない」
そっか。君がそう言うなら、僕はもう何も言うことはない。これはプログラムにないけどきっと君が僕をそう創るのだろう。
さようなら、僕の希望。
ルウは、最後に自分の体を少しずつ花のようなものに変えた。
ルウからもらったアネモネ。
私の大好きな花。私はそれを手に持って、この世界のドアに差し込む。
さあ、これからどうなるかはわからない。思念になり得た私は果たして肉体に再び戻ることが出来るのだろうか。
ただ私は、生きる事を選んだ。
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