煩い部屋

「こ、怖かった」


「この扉を閉めたら急に襲ってこなくなったね。この扉の中でしか動けないみたい」


ルウの言葉に同意する。

だが、次もあの化け物が現れると思うと次の扉を開けたいという気にどうもなれなかった。


「でも、開けないと帰り方わからないままだよ」


……少し考えた後、私は息を整え、次の部屋に入る準備をした。


***


金ぴかの厳かな扉を開けた瞬間、トランペットの大きなファンファーレが耳を劈く。


「おめでとう!君は素晴らしい。君は選ばれたんだこの世界に!」


スピーカーのような大きな音が、何度も繰り返される。

その音とともに称賛する様な拍手と歓声がどこからともなく聞こえる。


「何なの。この部屋。早く出たい」

「まあまあ、そういわずに。僕も探すから君も頑張って」


次の瞬間には、

「君は最低だ。この世界は君を拒絶する。すべて君もせいだ」

その声と共にブーイングの嵐が直撃する。


「煩い。この部屋はうるさい人しかいないの。電源があったら切りたい」


その部屋は文字が沢山書きなぐられていた。色々な字があった。ぐちゃぐちゃの字。丸みを帯びた文字。達筆な文字。

しかし言葉はどれも似たようなものだ。

かっこいい、可愛い、頭が良い、優しい、君は最高だよ。というポジティブなものが並んでいる。

しばらくすると一瞬でその部屋は暗くなり、君は死んだほうが良い、不細工、馬鹿、この世界に必要ない。というものに様変わりする。


「明るくなったり暗くなったり目がちかちかする」

「僕たちはいつもそれのそばにいるんだけどね」


ルウは自嘲気味に私に目配せをした。

私はそのしぐさに少しおぞましさを感じた。ルウの端正な顔立ちがゆがんだものに様変わったからからその落差にかもしれない。

ほら、こんな風にと問いかけられているように感じた。

目を逸らした先にコンセントがあったのでそれを抜くとその部屋は何も移さない変哲もない白い部屋に変わった。大きなパソコンモニターがいくつも机の上に並んでおり、どうやらオフィスのようだ。



沢山の紙の資料がゴミ箱の中にある。

中身を確認すると、時代は変わった。紙は不要。デジタルへと書いてある。

誰かのプレゼン資料であろうか。同じものが何部も印刷されホッチキスで止めてある。


「時代は変わったからね」

ルウは寂しそうにそうつぶやいた。


 

 その中に精神保存の方法と書かれた資料を発見した。パソコンにデータがあるか確認しようとしたが、パスコードを入力しないとダメ見たい。


 ホワイトボードには、やる気と元気があれば、世界は変わると書いてある。

 私はいたずら心にやる気をミルキーに変えておいた。こっちの方が幸せな世界そう。


 少し歩き続けていると、カードキー保管室を発見し、そこにパスコードらしき番号を見つけた。

 それを持ち出し、打ち込むと精神保存の方法が出てきた。


――我々は、肉体と精神を永久に分離させ、メタ存在としての人間を確立させることが、まず先決である。自己保存の段階において、ai、アルターエゴをこの電子時空内に保管する。保管した魂は永遠にその中で生き続ける。そして本体の精神をまず完全に破壊させるために電気ショックを三秒与える。五秒になると死んでしまうので要注意。破壊した精神に自白薬を打たせ、意識が混濁した際、新たな人間を構築させる。社会にとって都合の良い清らかな人間の育成ーー


なんだろうこれ。

まがまがしいものをみた気がしてそっと画面を閉じた。


ルウがその画面を私が閉じたことに気が付き、このほかには何もなさそうだとつぶやく。

 私は、ルウに従ってこの部屋を出た。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る