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家の
ママは、私の顔を見るとニヤニヤ笑って、「さては
……それに、ママは片手にスマホを持っていたんだけど、……その画面に『110』って数字がチラッと見えたような、見えなかったような……。
もしかすると私は、
ママは夕ごはんの準備してくれていた。「すぐにできるから」ってママの言葉に甘えて、私は手伝わずに、
おもしろそうな番組がなかったから、私はなんとなくニュースを見ていた。たまに怖いのがあるから、あんまりニュースは好きじゃないんだけど、今日はいいニュースばかりだった。
今年はクルミがたくさんとれそうだとか。人がしゃべってるような声で鳴く、おもしろカラスが
それはぜんぶ、この街から遠く離れた、別々の、知らない場所でのことだったけど、やっぱり、いいニュースはいいよね。聞いているだけで、ちょっぴり幸せな気持ちになるから。
どうして今日はいいニュースばかりなんだろうって、少し不思議に思った。だけど少し考えてみて、それはすぐにひっこんじゃった。
不思議なんかじゃないよね。たぶん、これが世界のほんとうの姿なんじゃないかな。
いつものニュースはさ、世界のダメなところばかりを集めたものなんだよ。
ひとつの悪いニュースの後ろには、きっと、たくさんのいいニュースが
それはたぶん、私たちだって同じなんじゃないかな。
今日はひとつもいいことない日だったなとか、ここ最近ずっと不幸続きだとか、そんなふうに思うこともたまにあるけど、幸せのまったくない日なんて、ほんとうはないんだと思う。
ただ、幸せが見えなくなっちゃったんだよ。それか、『こんなの幸せなんかじゃない』って、自分で顔をそらしちゃうだけなんだ。
ほんとうに落ちこんだりしたときは、幸せを感じられなくなっちゃうこともあるけどさ、それでも、毎日毎日、私たちは幸せなんだと思う。
特別なことがなくたって、いつもどおりの一日でも。眠れるだけで。ごはんを食べられるだけで。キレイな景色を見られるだけで。大好きな人たちといられるだけで。思い出を忘れないでいられるだけで。
しばらくすると、ママがとなりの台所から顔を出して、「できたわよー」と声をかけてきて、すぐに「そこの
「『はい』はいっかいでいいらしいわよ?」
「えー、『あいあい』だよぉ?」
「『あい』もいっかいでいいの」
「えー?」
台所に行ってみると、そこには、私の望んでいたものがあった。
それは冷やし中華!
私は、その場でちょっと
「今日は冷やし中華よ。ソーメンは
そういえば、ママにはただ、お昼は外で食べてくるってしか伝えていないんだった。
よかったあ、お昼に冷やし中華を食べなくて。……同じものを食べ
私は冷やし中華を持って、スキップもどきをしながら、ママといっしょに
食卓に
私は思ってる。冷やし中華のときは、
もうあれだよね……幸せで、サイコーで、ヤバい……! おおげさじゃなく、この
ママは冷やし中華をもぐもぐしながら、私の食べっぷりを見て目をまるくしていたけど、どこかうれしそうだった。
「あんまり急いで食べるとつかえるわよ? いくらメンでもね。……それにしてもごきげんねぇ。なにかいいことあったの?」
「いま起きてるっ」
「いまぁ? あれじゃないのぉ?
「……ち、違うよ……。あ、でも、
「えっ? ……
「……え。もう
「こまかいことはいいの。それより正直に話して。ママぜったいに
……うわあ……
それでも、私は自分で話していて、『こんな人いるぅ?』『こんなことあるぅ?』と思うくらいで、今日あったことがだんだん信じられなくなっていったんだけど……、ママのほうはあんがいリアクションが
そんなママの様子を見るうち、私も、『まあそれもそうかぁ』と思って
ママとごはんを食べながら、ふたりでテレビにツッコミを入れたり、今日あったことを話したり。昨日と同じことをしているはずなのに、なんだかすごく特別に感じた。
まるで、昨日までの毎日が、今日の
ごはんを食べたせいか、疲れが吹き飛んで、なんだか力がみなぎってきた。
と、いうわけで私は、
「ねえママ?」
「どうしたの? おかわり?」
「ううん。もうめちゃくちゃ
「え。あなた、そんなに冷やし中華が好きだったの? それなら今度から……」
「いや、やめて……。それよりね」
「なにかしら」
「……あのさ。……また、『インコ』を
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