やりたいこと
1
私は
坂にある
脚がめっちゃキツいけど、私は構わず走りつづけた。
左右に建つブロック
明かりのついた家に、真っ暗なままの家。あたらしそうな家に、おんぼろの家。
こんなにご近所さんなのに、ぜんぜん知らない家ばかりだ。
この家すべてに人が住んでいるって考えると、それが少しだけ不思議なことに思えた。そんなのあたりまえで、そりゃそうだって感じだけど、なんだかさ、この世界は、私に関係のないことばかりなんだって、そう強く感じたから。
でも、それで悲しくなったとかじゃなくて、私は
だってこんなにたくさんの人がいるなら、どんなに悲しいことがあっても大丈夫だし、どんなに
どんなに自分を
こんなに人がいるなら、
私が知らないだけで、この世界には、ほんとうにたくさんの人がいるんだ。そして、私が思っているよりもずっとずっと、いろいろな人がいるはず。
私とぜんぜん違う子。私と似た人。
がんばり屋さん。ぐうたら屋さん。
タイクツで苦しい人。自分のことが嫌いな人。ワガママな子。自由がほしい人。
好きなことを見つけた子。
はげましてもらった人。
めげない人。負けない人。あきらめない人。明るい人。生きるのが楽しい人。自分が生きてるのを忘れちゃうくらい、楽しくて楽しくてしかたがない人。
こんなにたくさんの、私の知らない、私に関係ない人がいてくれるなら、私の世界は、これから、どこまででも大きくなれるんだ。
……そういうわけで、誰かに助けをもとめようと思ったんだけど、こんな時間だからか誰とも会わなかった。
こんだけ走ってるんだから、ひとりくらい誰かとすれ違ってもいいと思うんだけど……。かといって、かってに人の家に入っていくのは、
でもまあ、この
それよりも道に
よかったことに走るうち、私のあとを追ってくる音はだんだん遠ざかっていった。
私はほっとして、ブロック
息が切れて、吸ったり吐いたりするたび変な声が出た。カエルやトンビみたいな。
「……はあっ……! はあっ……! ……ぬぁ……! う、うげえぇ……! ……キュ~……、おえっ……、……! ……ピョ~……、……うっ……ピ~……、うえっ……! はあ……! はぁ…………! ……っ……、……! …………!」
少し落ち着いてきて、私は空を見上げた。
空はいちめん、赤と
とにかく
私は
私あれなんだよね。方向オンチなのにプラスして、距離感があんまりわかんないんだよね。どれだけ歩いたとか、これだけ進んだとかがさっぱりわかんないっていうか。
だから、一度
すぐに誰かに道を聞けばいいんだけど……なんか恥ずかしくて、なかなかそうできなかった。
だけど、いまならもう、すんなり聞けそうな気がする。
だから私はヘーキ、ぜんぜん不安じゃない。
心配なのは、ママのことだった。
少しまえから私の帰りが遅いのを心配してるだろうし、日が沈んだらきっと、もっともっと心配する。
いますぐ近所の人に道を聞いて、全力で走ったなら、もしかすると日が沈むまえに帰れるかもしれない。そう考えて一歩
振り向くと、私のすぐ後ろには、あのトロッコがいた。
その上には、
そして白い
「いや、ぜったいにエックスっ!」
そう私がツッコんだ瞬間、白い
そのまま三秒くらい決めポーズで固まっていたけど、
「トロッコ問題ささいな問題!!」
その瞬間トロッコは、
でも、トロッコはこっちに走ってはこないで、ただ、その場で少しだけ横を向いた。すると
回転が速すぎるせいなのか、
私もすぐに
逃げながら後ろを見ると、トロッコは、火花を
「トロッコ問題ささいな問題!! トロッコ問題ささいな問題!! トロッコ問題ささいな問題!!」
「ぎゃああーー!! 誰かたすけてえー! なっ! なんで曲がれんの! 曲がるのうますぎ! どんな
……もうこれはダメだ、いますぐ近くの家に
道をなんどか曲がるうち、ちょっぴりトロッコとの距離を離すことができたけど、ぜんぜん逃げ切れる気がしない。
ずっといる。振りかえれば、すぐ後ろに。トロッコが。ずっとずっとそこにいる。私の後ろをピッタリついてくる。
息が切れて、
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