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カラスさんはそのあともギャーギャーなにか言っていたけど、私は構わず走りつづけた。
坂を
まるで、ほかの誰かさんの足音みたいだ。それもプールの
夕日はほんとうに沈みかけだってのに、ありえないくらい
だけど、直接見ていても目はまったく痛くなかった。あべこべに、じんわりあったかくて気持ちいいくらい。それだけじゃなくて、体まであったかくなっていくような、かるくなっていくような、眠くなっていくような、すごくやさしい光だった。
あんまり
でもね、もうそろそろのはず、私にはそれがわかる、だって私は、この
ママのお腹のなかにいるうちにも。パパともいっしょに。ママの押すベビーカーに乗って。そして、自分自身の足で。
すぐに目が慣れて、夕日の
まるで日の出みたい。こんなに世界がオレンジなのに、おかしい。オレンジの日の出だ、おかしいー。オレンジの朝がくる、おっかしぃー。
ぜんぜん止まらない、まだまだ明るくなっていく、こんなんじゃ、これから先、ずっと明るいままだ、オレンジが終わらない、
でもなぜか急に、光のむこうに抜けられそうな感覚。あと少し走れば光の先に行けるって、そう感じた。ううん、それがはっきりとわかる。
そこはきっと、こことはちょっとだけ違う場所。
あ、もしかしてそこは、ほんとうの『あべこべ
『あべこべ
私はずっと考えてた、『あべこべ
ほんとうの『あべこべ
そこへ行ったら、私はどんなふうになっちゃうんだろう。もちろん『あべこべ』な私。だけどさ、『あべこべ』な自分なんて想像つかないよ。わかんない、ぜんぜんわかんない、むこうでの私が、幸せなのか不幸なのか、それさえも。
だけど、行かなきゃわかんないよね。そうだよ、だってわかんないんだもん、なにをどう感じるのかさえ。でもやっぱり、ほんの少しだけ怖いなって感じる。
だけど、そこでなら、いままでの失敗を、すべてなかったことにできるかもしれない。もしそうなら、たとえ不幸せになっても、私は
むこうはきっと、
ほんの一瞬、むこうの景色が見えた。いまの私には理解できない、ありえない景色だった。
おかしな夢の景色。
覚えておけないくらいめちゃくちゃな、思いだそうとしてもただ頭がムズムズするだけの、それで、いつのまにか消えちゃう景色。きっと、覚えていてはいけない景色なんだ。たぶん、たぶんね、たぶんそうだと思う。
それくらいにむこうはおかしな世界ってことなんだ。
でも大丈夫、すぐに慣れちゃうよ、あっちへ行けばね、世界のすべてがそうなんだからさ、すぐにあっちが現実になる。
そしてきっと、こっちでのことは忘れちゃう、そんな気がする。まるで夢みたいに。ホントの世界と夢の世界が
みんなのことを忘れて、その事実さえ忘れちゃっても、やっぱりなんとなく、悲しいって気持ちは残る気がする。そうはいってもそっくりな世界だから、そこまで悲しくならないのかな。だってあっちには、『あべこべなみんな』がいるんだろうから。
それに、あっちではあっちで悲しいことが起こるはずだもん。あっちで感じる悲しいが
だから、すぐに慣れちゃう。そうしたら、もう、理解できないとか、不思議とか、
悲しいことなんて、ひとつもないんだ。あっちの世界に行ったってヘーキなんだ、私は大丈夫なんだ。
自分のなかでそう
私は感じた。あとほんの何歩か進めば、光のむこうにたどり着くって。
そして、ホントにもうすぐでゴールってときに、後ろから、カラスさんの鳴く、「カー!!」って大声が聞こえた。
思えばそれは、初めて聞く、あのカラスさんのカラスらしい声だった。
……そんで、それを聞いた瞬間、……光の向こうから、……あきらかにヤバそうな、……すっごくうるさい音が聞こえてきた……。
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