5
夕日はだいぶ沈んでしまっていて、その頭だけを
それでも、夕日を直接見ていると
なんとなくだけど、夕日のいちばん真っ赤な光や、昼間の太陽の真っ白な光よりも、このぼんやりしたオレンジのほうが、ずっとしつこそうな気がする。
夕日から目を切って視線をさげると、坂道を少し進んだ先に、なにか落ちているのに気がついた。ベビーシッターの人が落としていったものだと思う。たぶんだけど。
私はハイハイして、それに近づいた。
それは手のひらサイズのちっちゃな紙で、よく見てみると、
私は
おおきな
ベビーシッター
と書いてあった。
ふーん、おっきな会社なんだぁ。それに、やっぱりあの人はベビーシッターの会社の人だったんだね。
会社の名前の下には、ちっちゃな文字で、
って書いてある。
……エンカイ? ……エンカイってあれだよね。お酒をいっぱい飲んで、みんなでいっしょに
……あの人、
『
でも、べつに、
私は顔をあげて、夕日を
もしあの人がパパだったら、……なんか、ちょっとやだなぁ……、って。
私は
「よしっ」と私は立ちあがり、クルミのところに戻っていった。
クルミの
しゃがみこんで、クルミの中身をかき集めようとしたけど、……アスファルトの
私は息を止めながら、ゆっくりと顔をあげて、カラスさんを見た。
カラスさんは、やけに無表情になって、私のことをガン見していた……。
「……ご、ごめんね」と私はカラスさんに言った。
「べつにいいよ」
「……いいんだ」
「ああ。クルミは世界じゅうにあるんだから」
「……
クルミをこんなにしちゃったから、てっきり
だって、あんなに
でもカラスさんは、私の真剣な質問を
……言ってから私は思った。……完全に
……だけど、なんかもう、いまさら『ごめん』って言えなかった……。……ていうか、いつのまにか私、めっちゃイジワルな顔してカラスさんを見ていた……。……心のなかでは、『ごめんね』って思ってるんだけど……なんか、どうしても体が言うことを聞いてくれない……。
……そんでとうとう私は、両目を見開いて、『おいこら、なんか言ってみろ』みたいな顔しちゃった……。
するとカラスさんは、遠い目をしながら、ポツリとなにか言った。
「ヘンペルのカラス」
「んっ? えっ? なんて? ペルペル? ペルペルって言った? ペルペルってなに? ねえカラスさん! ねぇ、ペルペルってなに? あ! わかった! あたらしいフルーツでしょ? そうでしょ、ぜったい! ねぇ! カラスさん? そうなんでしょ! それも
「黙れ」
「……え……。……ひどくない? ……なんで、……なんで……?」
「
「……た、たしかに」
「ですよね」
「……うん。ごめん」
「ふむ」
……ハム? なんでここでハムが出てくるの? と、私が
急にあたりが暗くなったような気がして、私は後ろに振りかえった。
夕日はいまにも沈みそうで、かろうじて頭のてっぺんが見えているだけだった。
私はまたくるりと後ろに振りかえり、カラスさんを見た。
「あのさ……ホントは、クルミ食べたかったよね……? ほんとうにごめんね……、……クルミをこんなにしちゃって……。……ほんとうにごめんって思ってるんだけど……、……わたし、そろそろ帰らなきゃ。……帰りが遅いと、ママが心配しちゃうから。
「見た目は、あまりあてにならない」
「……そうかもしんないね」
「ときに
「なにそれ? めちゃめちゃ
「ちょっと待て。話はまだ始まってさえいないぞ」
「……ふふ、ごめんねカラスさん。もうすこし話していたいけどさ。わたし……帰らなきゃいけないんだよ、自分の
「おい、待てコラ。オレのクルミを返せ。いますぐ
「……こわっ……さっきと話違うじゃん……こわい映画のこわい人みたいじゃんか……。……そうだ、あれだったら、今度また来てよ。今日の
私は、カラスさんに『バイバイ』と手を振って、またまた後ろに振りかえり、夕日に向かって走りだした。するとすぐに、後ろから声がかかった。
「行くなー! おまえにはまだはやい! はやすぎる!」
……ついさっき、
「
……あのカラスさん、ありえないくらい構ってちゃんだっ……、……
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