3
そうして、私の願いは
そのちっちゃなインコが家に来てから、目に映る世界が、なんだか
彼女が家に来てからしばらくのあいだ、その姿を
ある夜。
ベッドに入って、……あーそろそろ寝ちゃいそう……ってときに、急にそのことを『思いだした』。というよりも、私の感覚としては、『
だってその瞬間に、頭の上にカミナリが落ちてきたような
ベッドの上で上半身を起こすと、自然と
「そうだ……名前、……名前つけてあげないと、……名前……名前……、……そうだよ……そうじゃん……、名前……名前……名前名前……名前……」
その日は月が出ていなくて、それに私は
そんななかで、けっこう長いことぶつぶつ言っていたから、もしほかの誰かが、ドアのすきまから私のことを
だけどその日はちょっと夜ふかしをしていて、もう眠くて眠くてしかたがなくて、私はベッドに入りなおして目を閉じた。
それなのになかなか寝つけなかった。
眠いけど眠れないのがずっと続いた。
かといって、もう起きることもできなかった。まぶたが少しも
そのせいなのか、その夜は変な夢をみた。
夢のなかの私は、スーツを着てネクタイを
それで、すれ違う人たちはみんな、私のことに気がつくと、『これはこれは……!』ってな感じに、
で、私のほうも
すると相手はなぜか、「これは失礼いたしました……!」と
そんな感じで私は、街じゅうをほっつき歩きながら
でも、いくら
その夢のなかで私は、かなりの時間をすごしたはずなんだけど、そのあいだじゅう、あたりの景色はずっと夕方だった。
目に映るものすべてが赤茶色で、みんな
夕日は景色の終わりにのっかったまま、少しも動かなかった。
たぶん、なにかがうまくいかないんだ、なにか失敗しちゃったんだ、もしかすると、どこかがひっかかっているのかも、だから思いどおりに沈めない、でも夕日は、ぜんぜん
たぶん、
だってさ、現実の夕日よりも、なんだかずっとずっとさみしそうな感じだったから。
そんな世界にいたんだから、お腹がいっぱいにならなくても、不思議じゃないのかもしれない。
止まった世界なんだから、私の体が止まっていても、少しも不思議じゃない。
だって、
ただ、それが世界にひろがったってだけのことなんだよ。
はじめましてをして、ただそれで終わりで、そこから少しも進まない。物を食べても、ただそこで終わりで、あとはどこかへ消えちゃうだけ。
街の人はみんな、私を見つけるまでは、ぼーっとした顔をして、ふらふらと歩いていた。
歩くたびに背筋が、植物の
ほっぺたはゆるゆるなのに、少しも楽しそうじゃない。白い顔で、生きていないみたいで、サイコロよりも無表情なくらい。
きっとみんな、歩き疲れておかしくなってるんだ。
みんなみんな、行きたいところや、やりたいことも忘れて、それを忘れたことさえ忘れてしまって、なにも考えないで、ずっとずっと歩きつづけているんだ。
私は、そのなかのひとりでしかなかった。だってさ、私だってなにも考えていなかったから。
私もきっと、誰かがそばにいないときは、みんなと同じように、ぼーっとした顔して、ふらふら歩いていたんだ。けど、私がほかのみんなとひとつだけ違ったのは、ヤギに
ヤギたちの目はいつでも眠そうで、目を大きく開けていてもとろんとしてるふうだし、草をムシャムシャしてるときも、なんだかムニャムニャ言ってるみたい。
ヤギの目は眠りの目。
街のみんなはいくら時間が流れても、少しも眠そうな様子を見せなかった。同じ人をなんどか見かけたりしたけど、眠るどころか、
たぶん、夕日が沈まないから、家に帰れないんだ。
きっと、あの夕日がこっちを見ているあいだは、どんなに歩いても、誰も家には帰れないんだよ。
暗くならないから眠くならないし、なれなくて、歩いた疲れがたまっていくだけ、疲れて、疲れすぎちゃって、自分のことも、好きなことも、やんなきゃいけないことや、大切な人のことも忘れて、もう、あれこれ考えるよりも、うんうん
なんにも考えないで、歩いて歩いて、歩く人に。
私のほうは、ヤギに
少しずつ体から力が抜けて、そのうち立っていられなくなって、気がつくと道路のまんなかに横になっていて、私はもう、目を開けていられなかった。
息をするたびごとに、まぶたの裏に映るオレンジ色が、ゆっくりと火が消えていくように、真っ黒に変わっていった。
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