一年くらいの振りかえり

 私は、昔からいろいろなことを好きになるけど、いちばん好きなのは、やっぱり動物。

 たぶん、そうなったのは、家にいろいろ本があるなかで、いちばん初めに手にとったのが、動物の図鑑ずかんだったからだと思う。


 おサルさんやブタさん、イヌやネコ、ヤギにヒツジに、ラクダにカンガルー、クマさんにパンダ、リスにハムスター、ウサギとカメさん、マンボウにヒラメ、イカとタコさん、クジラとイルカに、イモリとヤモリ、カエルにアメンボ、トンボにチョウチョ、ペンギンにカバさん、タヌキとキツネ、ライオンにゾウさん、トラにおウマさん。


 ただ図鑑ずかんながめているだけで、ワクワクしてドキドキした。


 たくさんの動物たちのなかでも、なぜかトリに目をひかれて、そして、見ているうちにだんだんと好きになっていった。とくにインコに夢中むちゅうになった。


 しゃべれるってことに、心をうばわれちゃった。


 おサルさんでもしゃべれないのに、すごい! カッコいい! ってね。


 小さいころの私は、土日になるたびに、隣町となりまち動物園どうぶつえんにつれてって、とママにねだった。この街にも動物園どうぶつえんはあったけど、そこにはインコはいなかったから。

 家にはパパがいないから、家のことが大変だったはずなのに、ママは時間を見つけては動物園どうぶつえんにつれていってくれた。


 だけど、私は、だんだん、それだけじゃ満足まんぞくできなくなっていった。

 『自分でインコをってみたい』、そう思うようになった。


 最初、ママは猛反対もうはんたいした。あなたにはまだはやい、って言って。


 もとからママは、そういうことにはきびしかった。


 私が近所のノラネコにごはんをあげたりすると、ものすごくおこって、よく私の手のひらにデコピンをした。

 そして自分でデコピンしておいて、私の手のひらをやさしくさすりながら、「ごはんをあげるのは、男の子だけにしときなさい」とかなんとか、よく意味のわからないことを言って聞かせた。


 そんなママだったから、てネコなんて家につれて帰ったら、大変なことになった。私はめっちゃ虐待ぎゃくたいされた……まあ手のひらだけだけどね。


 だからさ、動物をいたいなんて言いだしたら、もうヤバいよね。

 ママはすんごいいかくるった。

 それだけじゃなくて、いろいろな話をもちだして、動物をうのがどれだけ大変かを聞かせて、私をじりじり追いつめた。


 だけど、私のインコをいたいって気持ちは、弱まるどころかますます強くなっていった。だから、ママになんどもなんどもお願いした。いいよって言ってくれるまで、なんどでもお願いしてやるって、そう思っていた。


 お願いをし始めて、たぶん半年くらいったころだと思う。それはたしか、秋分しゅうぶんの日のことだったっけ。


 なんと、ママのほうから言ってくれた。「インコ、ってみたら」って。

 私はうれしくて、けっこう長いこと泣いてしまった。だってさ、そのころにはもう、半分くらいあきらめていたから。


 あんまりうれしすぎたせいなのか、私は泣きやんでからも、ちょっと現実を受け止めきれなかった。一瞬だけ、あれじゃないかと思ったもん、テレビのドッキリ番組。


 そんなわけで、なんだか急にやってきた幸せが信じられなくて、もしかしてママのウソなんじゃないかと思って、私は、どうして、とママに聞いた。するとママは、

「あなたも大人になったからね」と言った。

「……いや、まだ子どもですけども……」

「インコにとっては、あなたは親なのよ?」

「おや?」

「……いいえ、もっとすごいわ。神さまよ」

「神さま? ……神さまって、あの神さま? 神さまってあれでしょ? あのほら、あの……えーっと、……あれがあれするやつ……」

「そう、それよ」

「……めっちゃすごいね」

「だから。責任重大せきにんじゅうだいよ」

「なにそれ? セキセイインコとなにか関係ある……?」

「……もうインコで頭がいっぱいなのね……。でもね、それが大事よ。……いい? ずっとそうしていないといけないのよ? 自分のことや、自分の気持ちなんかは、二等賞にとうしょうにしてなきゃいけないの。いつも動物が一等賞いっとうしょうじゃないとダメ。

 生き物をうってことは、そういうこと。……好きとか、興味きょうみがあるとか、もうね、そんなことは関係なくなるの。きびしいようだけど、命をあずかるなら、命をかけるくらいの覚悟かくごがないとね」

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