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「ねぇえ、カラスさん」、私の声はなんだかやさしかった。まるで友だちにでも話しかけてるみたいに。……なんかこのカラスさんは、そこまで危険じゃなさそうだしね。
「なんだ」、いっぽうのカラスさんはぜんぜん
「……なんかあったよね……ムチでなんか、あれするみたいな……ことわざだったか、言い伝えだったか……」
「死体にムチ打つ」
「いや、わたし生きてるから……、……かってに殺さないでよ……。違うよ、あれだよ……なんだっけ、……そうそう……役不足だったか、力不足みたいなやつ……」
「
「そう、それ! たぶん!」
私これでもあれだからね。
「それにしてもさ、カラスさん」
「どうした」
「クルマがなかったころはどうしてたの? クルミを
ちょっとだけ
「……昔のことは、よくわからない」
「……そうなんだ。でも、……そうだよね。誰だって、昔のことはよくわかんないよね」
昔のことは、確かにじっさいにあったことだから……未来のことよりもはっきりしてるはず。……だけど、ぜんぜんさっぱりわかんないことは、未来のことよりもぼんやりしてる気がする。……なんだかいまの私には、未来のことのほうがよっぽどわかるような気がした。
私はチューリップの家に目を向けた。
坂道を吹き抜ける風を受けて、チューリップたちはおおきく
「明日、
そう
考えてみれば、そうだよね。
私はまだ子どもなんだから、昔をあんまり持ってない。その代わり、未来はたくさん持っている。
ほかの子たちがどんなふうに感じているのかわからないけど、私にとって、未来のことは多すぎて、昔のことは少なすぎるくらい。
未来は、キカイで送るたくさんのメッセージみたい。
昔は、たまに
やっぱりさ、未来のことも昔のことも、けっきょく、よくはわかんないよね。いまのことに比べたら。
誰かが書いた文章も、それどころか自分で書いた文章だって、いまの自分の気持ちに比べたら、ぜんぜんわかんないよ。
パズルみたい。なぞなぞみたい。
うんと頭をひねらなきゃ、その気持ちは、ほんの少しもわからない。
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