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私は、頭を押さえて涙を流しながら、横向きで地面にまるまっていたんだけど、おじいさんはその横を
おじいさんは
着ているパジャマは……あきらかに冬用だった。長そで長ズボンでモコモコしてる。
左手には大きなスコップを持っている。右手には動物の
一瞬イヌかと思ったけど……違うみたい。
イヌにしては体のかたちがおかしいし、しっぽが白黒のシマシマ
そのしっぽを、まるでネコみたいに、てくてく歩くのに合わせてくねくねさせてる。……だからってネコってわけでもないみたい。
……なんだろ……あの動物……?
その動物にひきずられるようにしておじいさんは歩いていた。しっぽのくねくねする方向に、ちょっとだけ遅れて、体をゆらゆらさせながら。
おじいさん、まるで
私は地面に横向きにぐったり寝たまま、「……あのぉ……」っておじいさんに声をかけたんだけど、おじいさんはまったくの無反応で、その代わりに、小さな動物がこっちに振りかえって顔を向けた。
ギョロっとした黄色い目ん玉に、小さな黒い
やっぱり、あきらかにイヌとかネコじゃない、……たぶんおサルさんだ思う。えっと……なんだっけ……。そうだ、あれだあれ、キツネザルだ。間違いない。
私これでも小さいころから動物が好きで、
……てか、キツネザルっていうわりに、なんかそこまでキツネに似てないなあ……、って
そして、こんなんじゃ少しも
「ワンッ!!」
「……えぇ」
「ワンッ! ワンワンッ!!」
キツネザルは
だけど、
でもヤバいくらい怖いし、キツネザルはおじいさんをひっぱってちょっとずつ近づいてくるから、私はすぐに起きあがり、坂を少し
「ゥー……、ワンッ! ……ウー……グルル……、ワンッ!!」
「……こわすぎでしょ……。まるでこわいイヌじゃんかっ」
よかったことに、キツネザルはそれ以上追っては来なくて、ただ、目を血走らせてギロギロ
しばらくするとキツネザルは、『……たくっ、今度からは気をつけろよ』みたいな表情を浮かべて私から目を切ると、夕日のほうへ歩きはじめた。だけどちょっと進んで、すぐに立ち止まってしまう。
だいたい十秒くらいして、キツネザルは突然、
その動きの速さに
そしてまた十秒くらいたったとき、キツネザルは、どこを見ているのかよくわかんないような怖い顔をしながら、おじいさんをひきつれてこっちに向かって歩きだした。
……うわわ、ヤバい、やっぱやる気だっ……、そう思って私は逃げだそうとするけど、キツネザルはまた立ち止まってしまった。それはちょうど、チューリップが横たわっているあたりだった。
キツネザルは突然、めっちゃオーバーに、すっごい大きなため息を吐いた。そして、土の山のすぐ近くに寄ると、後ろの片足をあげて、山に向かってオシッコをし始めた。
……ちょ……っと……なんてこと……してんの……。
オシッコを終えると、キツネザルはおじいさんに向かってなんどか
するとおじいさんは、顔をあげながら白目をむいて、だらしない笑い顔を浮かべた。
そして、けっこうな勢いで地面に両ひざを突くと、口のなかから『ぶぅえっ!』とレジ袋を吐き出して、手に持っていたスコップを使って、土をかき集めてレジ袋に入れていった。
「……サル……マネ……サルマネ……サルマネ……、……サル……シバイ……?」
おじいさんは、ずっとぶつぶつしゃべりながらで、それもノロノロした動きのわりに、キカイみたいにムダなく土をかき集めていった。
おじいさんは作業を終えると、スコップを近くの家の
そして、倒れるようにぐるりとターンして後ろを向くと、キツネザルにひっぱられながら坂を
「……ダメ……ゼッタイ……ミザル……イワザル……キカザル……セザル……」
おじいさんの左手にぶらさがるレジ袋は、土でパンパンになっていて、その口からは、チューリップの頭が
チューリップがこっちをじぃーっと見ている気がして……なんだか後ろめたくて、……私はうつむいて、視線を
……ホント……ごめんね……。
顔をあげると、おじいさんはもう遠くにいて、夕暮れに消えかかっていた。夕日に近づいていってるはずなのに、おじいさんの
それまでまっすぐ歩いていたキツネザルが、急に
それにつれられて、おじいさんも
私はたぶん、もうなにがあっても
ムテキな女になりました。大人になるってこういうことだよ。なんてね。でも……私もいつか、かならず大人になるんだよね。
チューリップの家のほうを向いて、チューリップたちを
私は、
だから、ほっとしていいはずなのに、なんだか
自分が
ずるい大人にだけはなりたくないって思ってたはずなのに、もう、私、子どものうちからずるいじゃん。
自分が嫌になったり、思いどおりにクルミが
私は、右手を短パンのポケットに突っこんでクルミをとりだし、そのまま右手を空に向かって振りあげて、「わたしのアホォ!」と叫びながら地面にクルミを投げつけた。
クルミはアスファルトに
「……もうやだ……痛すぎ……」
おでこはもちろん痛いけど、それよりも、首がものすごく痛くなってきた。クルミがあたった
……いまの私には無理なんじゃないかな、クルミを
……ああ、神さま……、……いや、もう、誰でもいいからクルミ
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