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男の人は
……なんだこの人……? なに言ってるのかさっぱりわからない……。めっちゃ怖い……。こんな暑いのに、
このままこっそりこの場から逃げだそうか、なんて考えた瞬間、また、どこからともなく音が聞こえてきた。
「コウ、コウ、コウ」っていう音。
どこからだろうと耳を
空を見上げると、
トリたちは『あべこべ
突然、男の人が全身をビクッとさせた。
トリに集中していたから、私はそれにめっちゃ
頭を守ろうとしたのか、両手がかってに動いてくれたんだけど……、
それに、脚の力が一瞬抜けて、もうちょっとで転ぶところだったし。
あと、「は」と「う」と「ぎゃ」をまぜたような変な声が出ちゃった。それくらい
クルマでも来てるのかと思って後ろを振り向くけど、そんなこともなかった。
じゃあこの人はなにに
そうだよね。あんなに
また男の人がビクッとした。二回目だから、さすがに私はもう、さっきの半分くらいしか
男の人はビクッに続けて、右腕をさっきよりも速く、だけど変わらずぎこちなく、『ウウィーン、ガシャン』と動かして、
そして、インドのダンスみたいに、顔を正面に向けたまま、頭を左右に二回ずつスライドさせると、最後に頭を『うにょーん』と突きだして、
「……あっ! ああ!! あのワタリドリの腰つき……、……たまらねぇじゃねぇかよ!」
……なんかもう、ぜんぶ台無しって感じ……。
男の人はいきなり、夕日のほうへと走りだした。
たぶんトリを追っかけてるんだと思う。
けっこう足が速いけど……、走りながら全身をビクビクさせてる……。めっちゃキモい……。それに、ゲタの音がすんごいうるさい……。
少し走ったところで、男の人は声をあげて
それは、近所じゅうに
私はそれに、あれに近いものを感じた。夕方の五時になると街じゅうで鳴る、あの
「待て! 止まれえ!! ……ああ、月明かりに染まる空は青々として……夜明けまえの空のようであるな……。こら、待てと言うにぃ……! ……いや……これはっ……さては、これは、そのまま夜明けなのか?
ならば、この月の明るさは、なんだ??
は、はは……これはおかしい……世界そのものが、俺を
男の人は
トリたちはどんどん遠ざかっていく。
しばらくすると、男の人は立ち止まってしまった。
てっきり
「……なにぃ?? ……俺の頭のなかでしゃべるおまえ、……さては俺の
ここに来て、ゲタ
……ぉ……おお……、天にあられる神々よ……、……
『ありがとう』。
……もう
男の人は、左腕をおろしながらこちらに振りかえり、
で、そのままエンガワにあがって、そこのガラス
すると、ちょっとの
パトカーのサイレンが聞こえてくるとか、誰かが家から出てくるとか、そんなのはまったくなかった。
あんまり静かだったから、なんとなくだけど、家にいた人とあの男の人が、この
まあ、そんなわけないけど。
「ねぇ、あれはなに?」、私はカラスにそう聞いた。
「オレたちには関係のないことだ」
「……。えー、ホントにぃ?」
「おまえは、この
カラスの声は、なんか、すごくイジワルだった。
「……いや、そんなふうには思ってないけど……、ていうか、ちょっとカンジ悪いよ、……ちょっと聞いただけじゃん……っ……」
私は言葉の最後のあたりを、ちょっとウソ泣きふうに言ってみた。
だけど、カラスは
「まるで
「は? アカゴって……赤ちゃんってこと?」
「そうだ」
「それって……わたしのことを、赤ちゃんって言ったってこと?」
「ああ、間違いない」
「違うわっ! わたしまだ大人じゃないかもだけど、……それでも赤ちゃんじゃないわっ! すこしふざけすぎでしょ……、……わたしもうハイハイとかしてないしぃ!! しかもさ! してたのだって昔だよ……だってわたし覚えてないし! 覚えてないくらい大昔のことだよ!
……忘れちゃってても……知ってるもん……わたし……だって、だってそうだもん……。……ママから教えてもらって、知ってるもん。ハイハイけっこうすぐにやめちゃったって……、だからわたし、ほかの人よりハイハイしてなかったしぃ!!
……忘れてるけど……覚えてなくたって……ぅぅ……わたし知ってるよ……ちゃんと……ぅぅ……。 ……はぁ……! もうなんなのっ……! ……ぅぅ……うぅー、……んがぁー! ハイハ――!!」
「すこし落ち着け」
「……ぁ、あんたがねぇ……!」
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