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場所の名前や人がどこを通るかなんて、空を飛ぶカラスにはどうでもいいことだよね。もちろん、私のヒミツのことも。
でも、クルマがどこを通るかはけっこう重要そうだよね。私だって、缶ジュースのフタが開けられないときは、ちょっと必死になるもん。
「カラスさん。ここ、あんまりクルマ通らないよ。たぶん、ほかんとこ行ったほうがはやいかもね」
そう声をかけた瞬間、カラスはゆっくりと口を
クルミが地面にぶつかる音は、思ったよりも地味だった。空気のぬけたバレーボール以上、石ころ以下ってところ。
クルミはなんどかバウンドしながら、こっちのほうにコロコロと転がってきて、ちょうど私の足元で止まった。
それは見たことないくらい大きくて、パンパンにふくらんでいて、いまにも
ピンポン玉よりはぜったいに大きいし、スモモくらいはありそう。表面は、
……すんごい強そうな感じ。
クルミの王さまって感じ。
いやもうなんか
あれが出てるもん、オーラが。
世界はオレのもんだぜー、うははははははっ、……みたいな感じ? ゲームはほのぼの系しかやんないから、
視線を上に戻すと、カラスが私のことをじぃーっと見つめていた。……なんだか、ねっちょりした視線って感じ。
ためしに横にカニ歩きをしてみると、カラスは頭をまわして私を見つづけた。ずっとガン見してる……。
突然転びそうになって後ろによろめいたけど、なんとかこらえて、その場に
カラスの目の
ほんとうに転ぶすんぜんだったから、私の体はけっこう
変わらず、じっと私を見てる。
なにか期待されているような気がして、数秒のあいだ私は固まっていたけど……、クルミ
でも、ちょっとだけ後ろめたくて、顔がかってにごまかし笑いをしちゃう。
「……あ、あー……
それはただのウソだった。
ただ帰りが遅いと、
顔をさげて、『……ご、ごめんねー……』って心のなかで
「おい。そこの
このセリフはぜったい危ない人のやつに違いないと思って、私はすぐに、身構えながらあたりを見渡した。
だけど、誰もいなかった。
見えるのはただ、さっきまでと変わらない景色。
それだけで、なにもない。
耳を
耳がなくなったんじゃないかとちょっと心配になって、私は両手で頭の横を触ってみた。
よかったことに……ちゃんと耳はあった。……あれ……耳たぶがなくなってる……、って思って一瞬ぎょっとするけど、耳たぶもちゃんとあって、ちゃんとプニプニしてた。
あれなんだよね……私の耳たぶって、あんまなくて、なんかオマケみたいで、地味にコンプレックスなんだよね……。
耳たぶとか使わないから、……べつにいいんだけどさ。もうちょっと耳たぶがほしかったなって、地味に思う。
それにしてもさっきの声はなんだったんだろう……? もしかして空耳?
……ていうか空耳って、なんで空耳っていうんだろう? 空から聞こえるから? そうかなぁ? ……ぜったいに横からだと思うけどなぁ私は。
……そもそも、上とか下から声をかけられても、よくわかんないよね。相手が見つからなくて、かならずその場でくるんとまわっちゃうもんね。
「こっちだよ、こっちー」ってけっこう大声で言われて、やっと気がつくくらいだもん。
ためしに上を見てみると、カラスと目が合った。……なんだか、返事を待ってるみたいな感じ……。
「……あはは……まさかね……」
「おまえだよ」と、カラスはよく通る声で言った。
「うわあ! ……しゃべった……! こわ!」
ヤバい、バケモノだ、どうしよう……! ……でも……あれじゃんか……相手はただのカラスじゃん。空が飛べて、クチバシで突かれると痛そうなだけ。
……たぶん、組んじゃえばこっちのもんだ。たぶんだけど……。
「
「……なんだ、よかったぁ……、……って、えっ! ……いまのところは……?」
「
「…………それはなんですか……? ……センセンフコクみたいな……?」
「つまり。売られたケンカは買うということだ」
「……なっ…………の、のぞむところですよ……、……わたしこれでも……あのほら……あれやってますから……あのほら……あの……くるっとする、ジュウドーみたいな……」
少しの
「
「そう、それ!」
こんなウソでなんとかなるかな……、……でも私、陸上部に入ってて
「
「え? ……
「
「サンコウ? コウサンの間違いじゃなくて?」
「おまえがその気なら、やってやらないこともない」
「……えっ……ん……? ど、どっちだよ! やるのか! やらないのか!」
「すべてはおまえしだいだ」
「……え? ……そんなの、おまかせコースじゃん。お店じゃんか! わたしまだ学校かよってる人ですけど! まだ仕事とかしてませんー!」
「
クガクセイがなんなのかとか、言ってることの意味とかはよくわかんなかったけど、カラスの声はなんかバカにしたふうだったから、イラっとして私は叫んだ。
「なんだとー! 知らないの? バカって言うほうがカウンターされるんだよ!」
「バカとは言ってないぞ」
「言ってるけど、言ってないじゃんかあ!!」
「すこし落ち着け」
「そっちこそ……」
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