第11話 黒線と赤字

舞踏会が終盤に近付き、私はジークと共に退場した。帝国の貴族達の殆どから私は好意的に受け入れられたと感じる。

だれも私がルルージュア王子として生きてきた人物とは思っていない。

私が名前を借りた第8王女ルーナは戦争中に行方不明となった人物だった。異母姉の第6王女メルーシアは、ルーナの死を見たと私に告げてきた。ならばなぜルーナは死亡を公表されていないのか?物思いに耽っていると、ジークが私の手を握りしめた。


私はジークを見上げる。

ジークは私に言った。

「クロエ?疲れたのか?元気がないな。」


私は微笑みジークへ言った。

「ええ、こんなに沢山の人に合ったのは久しぶりよ。貴方の妃として相応しい振る舞いができていたかしら。」


ジークは言う。

「ああ、クロエは素晴らしい女性だよ。気難しい側近のグロウ・キーソニアまでクロエを絶賛していたから間違いない。それに、たとえ批判があっても気にしなくていい。俺が愛しているのはクロエだけだから。」


私はジークに抱きしめられた。

愛されている事を感じる。だけど私は皇帝に愛されるべき人間ではない。ジークの父と兄を殺したガージニア王国の王子として生きてきた。私が生き延びる為、ジークの為に彼の元を離れたはずだった。ジークに包み込まれ、心地よさと温かさを感じながら私は疑問を口にした。


「どうして、私なの。貴方に相応しい人は他に沢山いる筈よ。」


そう、筆頭婚約者候補のマイラー公爵家令嬢イアンナ・マイラーや、私の異母姉のメルーシア・ガージニア王女、それに先ほどの舞踏会場で出会った沢山の美しい女性達。彼女達は、私を歓迎するように見せかけて、妬ましそうな表情を時折浮かべていた。


ジークは言う。

「どうしてだろう。いつの間にかクロエ以外を妃に迎える事は想像できなくなっていた。俺が愛しているのはクロエだけだ。」


(私もそうだわ。ジーク以外と結婚するなんて考えられない。ずっと一緒にいたいのは彼だけだわ。)


私は、ジークの赤い瞳をみつめて言った。

「私も貴方を愛している。ずっと一緒にいたいのは貴方だけよ。」


(だからこそ、今の幸せを守るために行動しなければいけない。本当にあの人が生きているのであれば、私の大切な人たちに危機が迫ってきているはずだから。)












翌日、ジークが政務へ行った後で、私は異母姉のメルーシア王女から託された手帳を一人で広げた。


その手帳には沢山の情報が書き込まれていた。


皇帝の行動範囲、スケジュール、嗜好品、交友関係。


帝国の実情、主要貴族、懐柔するべき人物。


いつどこに皇帝が表れるのか?


どうすれば近づけるのか?




不気味さを感じながら私はページをめくる。


最後のページには、ガージニア王国の王子と王女の名前が列挙されていた。


ほとんどの人物が、名前の上に黒線を引かれ、赤の日付が書かれている。


(これは、、、亡くなった日?)


ルルージュア・ガージニア。私が王子として生きていた時に名乗っていた名前にも線が引かれている。日付は帝国軍が王城へ侵入してきた日になっていた。


行方不明と言われている王女達のほとんどにも黒線が引かれていた。


だけど、やはりおかしい。


第一王女ロニアについても黒線を引かれている。その日付は、ガージニア王国が降伏した日付が書かれていた。


(これは、間違いなのかしら。だってロニア王女はマイラー公爵邸に滞在していると舞踏会で聞いたばかりよ。)


それに、やはり、、、、


王子の中には一人だけ黒線が引かれていない人物がいる。彼は死んだはずだった。でも死んでいないのかもしれない。メルーシア王女は、彼が生きている事を知っているようだった。


彼に会わなければいけない。でもどうやって会うのだろう。


戦争から2年が経つ。こんなに長い間生き延びているなんて信じられない。


探さないといけない。


私の大事な人達を守るために。


あの人を。

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