第10話 妃候補

私は、ドレスを上げ手帳を太もものベルトへ固定した。


部屋から出て舞踏会場へ向かう。


(後で、手帳を確認しないと、、、まだ、ジークには言えないわ。)


父と兄を殺され、皇帝となったジークはガージニア王国を滅ぼした。直系王族は皆殺され、数人の王女だけが生き残っている。


まだ、確証が持てない。クロエは異母姉達とほとんど交流が無かった。だけど、恨んでいるわけでも、死んでほしいと思っているわけでもない。もし、生き残りの王女達と、あの人が何かを企んでいる事が分かったら、ジークが彼らを見逃すとは思えない。


クロエは、深呼吸をしてから舞踏会場へ戻って行った。


キラキラと輝くシャンデリアや、絶景に咲き誇る花々のような沢山の色のドレス。楽しそうな笑い声、話声が騒めいている。


「クロエ。ザックはどうだった?」


クロエに気が付いたジークが側にきた。


ジークの赤い瞳は、嬉しそうにクロエをみている。第6王女メルーシアから託された太ももの手帳がとても重く感じる。ジークは私の事を信頼している。ルルージュア王子でも、仇国の王女でも関係ないと言ってくれた。


ジークはクロエの手を取り、お辞儀をして手の甲にキスをした。


「俺の唯一の妃。戻ってきてくれて嬉しいよ。」


(私も嬉しい。貴方にまた会えて、同じ時間を共に過ごす事ができる。)


私は、不安を胸の奥底へ沈めて、ジークに微笑みかけて言った。


「ザックは、すぐに寝たわ。ジーク愛している。」







そんな私達に声をかけてくる壮年の男性がいた。


「仲が宜しいですな。陛下。」


紺の短髪に、深い眉間の皺があるその男性は、明らかに最高級だと分かる服を身にまとっていた。タイピンやカフスボタン全てブルーダイヤモンドだと思われる宝石を身につけている。男性の隣には紺色の長い髪をした美しい女性が無表情で立っていた。


ジークは私の手を取ったまま、その二人を振り返り言った。

「ああ、マイラー公爵。ちょうどいい。紹介したいと思っていた所だ。」


私は、ガージニア王国式のお辞儀をして名乗る。

「お初にお目にかかります。故ガージニア王国第8王女ルーナ・クロエ・ガージニアと申します。」


私はゆっくりと頭を上げる。その時ふと、紹介されたマイラー公爵の隣の女性が私を睨みつけているような気がした。


マイラー公爵は言った。

「公爵位を賜っているライザック・マイラーと申します。皇妃様には娘共々仲良くしていただきたい。娘はずっと陛下の妃になりたいと言っておりましてね。将来は娘も妃として、、、」


ジークは、マイラー公爵の言葉を遮った。

「公爵。その話は何度も断ってきたはずだ。」


マイラー公爵は言う。

「ええ、茶髪の恋人を探しているから、私の娘との縁談が保留になっていたはずです。ですが、こうして陛下は妃を迎え入れられました。ガージニア王国の王女だけでなく、帝国の貴族の娘も妃に迎えていただきませんと均衡が乱されます。」


私は、戸惑いジークを見る。


ジークは言った。

「分かった。検討する。だが、すぐには難しい。」


マイラー公爵は笑う。

「もちろん。それで結構です。そうそう、ルーナ様。実は我が公爵家にガージニア王国第一王女のロニア様が滞在されております。ロニア様も、ルーナ様にお会いしたいと言われております。よろしければ、会いに来ていただけませんでしょうか?」


私は、微笑み言った。

「ええ、私もロニア御姉様に、お会いしたいです。近々伺わせていただきます。」


ロニア第一王女は、思慮深く博識な王女だった。戦争前にマイラー公爵嫡男と婚約していた為、公爵家に匿われて生き延びたのだろう。



マイラー公爵と隣の女性は、私達から離れて行った。

結局、マイラー公爵の隣の女性は一言も発しなかった。彼女はマイラー公爵令嬢のイアンナ・マイラーだろう。


ジークは、私の手を握り言った。

「疲れただろう。クロエ。もうすぐ終わるから。」


私は、ジークの手を握り返した。

「ええ、ありがとう。ジーク。」

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