第11話 ガイコツ、デレる
「落ち着けって言われても…。」
そう言われてもシンは困ってしまう。いざという時、体の動き、思考の働きがぎこちなくなってしまうのだ。
「ホホホ。それで落ち着けるほど精神をコントロールできるなら、Zクラスには来てないでしょうねえ。」
「ヒョヒョヒョ。入学試験のときに、実技で緊張のあまり転び、筆記では解答欄を間違えて書いた愚か者がいたと言いますなあ!」
「………!」
落ち着けと言われた程度で落ち着けるなら、Zクラスには来ていない。入学試験でのことを指摘され、揶揄されているのだが、この二人がそれを把握していることにシンは驚いた。
--酷い…。あんなに頑張っていたのをバカにするなんて!
サラはガイコツの言い方にカッとなった。かく言うサラもこの件でシンをからかうのだが、それは、自分なりに「気にしなくていい」というメッセージを込めており、シンにも伝わっているはずだ。
「ヒョヒョヒョ。これぞ天命!愚かなる人間は只々従うほかないのだ!」
なおも続けるガイコツにサラは我慢できなくなる。
「あんたねえ!」
サラは立ち上がり、抗議しようとしたのだが。
「ヒョヒョヒョ。しかし、そのお陰で冥王様直々に教えを受ける機会を得たのだ!これに比べたら、愚かなる人間どもが行う試験の結果など塵芥に等しいわ!」
これを聞いてサラは驚いた。シンの方を見ると、シンも驚いている。シンがZクラスになって良かった、試験の結果を気にしなくていいと言っているに等しいからだ。
「……もしかして慰めてる?」
サラは思いついたことをガイコツに聞いてみる。
「じ、事実を述べたまでだ!」
ガイコツが人間なら、顔を真っ赤にして照れているだろう事は容易に見てとれた。
「デレるガイコツ…デレ受け…腐腐腐。」
ローズは、シン×ガイコツのカプにご満悦だ。
「ホホホ。ガイコツさんはなんだかんだで人がいいんですよねえ。」
冥王は太古の昔、ガイコツとの出会いを思い出す。人の世に絶望しながらも情を捨てきれないところに好感を持っている。その揺らぎが時には弱点になるが、運命をも変える力を発揮すると冥王は考えているからだ。
「め、冥王様!お戯れを…!」
ガイコツは焦った。まさか主人にまで揶揄われるとは思っていなかったからだ。
「私たちのことを調べて話してくれてる…。ちゃんと見てくれてる…。」
アーシェは嬉しかった。ここにいる時だけでも、自分のことを見てくれる者がいることがたまらなく嬉しかった。
「め、冥王様の部下として当然の事だ!」
狼狽えるガイコツにクラス全員がガイコツに対する印象が変わってきた。
「ふふふっ。」
アーシェは笑う。今夜、絶望が待ち受けていたとしても、今だけは笑っていたかった。
(ホホホ。すみませんねえ、ガイコツさん。)
冥王は念話でガイコツに話しかける。
(いえ、冥王様。あの子が久しぶりに笑うところを見ることができ、感激しております!)
ガイコツを構成する者の一人が冥王に答える。ガイコツは100人ほどの死者の集合体だ。今は『ガイコツ』と名乗らせている太古の剣聖に集合体を操る第一位の権限を与えている。ガイコツ以外が答えるということは、ガイコツ自身もその者と同意見という事を示している。そのことにに冥王は安堵する。
(ホホホ。オーヴェル男爵。盟約は果たさせて頂きますから、安心してくださいねえ。)
辺境の英雄オーヴェル男爵。冥王が盟約を結んだ相手だ。彼の忘れ形見のために冥王はヘクトールを訪れた。
冥王は考える。男爵との盟約により守護する事となった『盟約の子』。彼女を連れ去ればいいのか、このまま学園におくべきか。彼女の心の傷が魂に達することがないように。
--『盟約の子』…ワタシの100年をかけた計画に貢献して頂くため、万全を期さなければなりませんからねえ!
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